〈おいしさの役割〉
日本人の食生活を支えてきた多様な食品のおいしさを味わう味覚の躾は、乳幼児から始まります。そして人間の味覚は10歳までにつくられると言われます。
おいしい味は副交感神経の活動を高め、摂食行動を誘発し、消化液の分泌も促進します。
おいしく食べる事こそが、健康の維持増進、すなわち健康づくりのための基本条件なのです。旬の食品で、簡単、おいしい、ヘルシーな初夏の料理を作ってみて下さい。
新型コロナウイルス感染拡大により、テレワークが多くの企業に浸透し、戸惑い、ストレスのシャワーの中で私たちは生活し、自宅での過ごす時間も長くなっています。
今月は心満足、美味しい家庭料理を紹介します。
梅雨に入り蒸し暑い日々が続きます。気が付くと先週は6月21日は夏至で、今週より本格的な夏の到来です。
夏の薬膳の考え方は、自然条件が「暑」で清熱が必要です。寒性、涼性の食材が効果的です。夏に旬を迎える黄瓜(キュウリ)、番茄(トマト)、南瓜(カボチャ)などが最適です。水分も多く、ビタミンやミネラルの補給もできます。夏は食欲不振や体力の消耗が激しく、胃腸機能も低下しますので、脾や胃経に入る鰻魚や蜂蜜、大棗(ナツメ)も是非一緒に調理に使って下さい。
夏旬の野菜はうま味が凝縮されており、鮮度の良い食品を使うと美味しく減塩効果も期待できます。しかし、夏は暑くて多くの水分を飲用したり、汗をかくため発汗で塩分も損なわれて、低ナトリウム血症になることがあるので塩分の補給は重要です。
夏旬を迎えた魚で、日本で最も漁獲量が多い魚は?!「入梅いわし」と言われるように、梅雨時に脂が乗り美味しくなるのは“鰯”なのです。今年も大量に漁獲された“鰯”の刺身や塩焼きは最高の一品なのです。数年前、イタリアのアルパーノ在住シスターマリア・ファティマ竹内おばとポルトガルのファティマを訪問し、街のレストランでの一押し料理は「鰯の塩焼」であった事に驚嘆し、味も絶品、感動しました。
今月は、我が家のお薦めの一品「いわしの蒲焼丼」に挑戦しませんか。鮮度は抜群なので、臭み成分であるトリメチルアミンをマスキングする必要はないのですが、酒と生姜で香り付けをし、衣をつけていわし天ぷらを作ります。次にフライパンにタレを入れて、生姜の香りを添えて両面焼きつけて、フォクフォクでアツアツいわしの蒲焼丼を召し上がってください。
鰯の魚油はエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸を多量に含み、コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用を有すると言われます。健康増進に不可欠な食品なのです。
〈うま味〉
食品には、それぞれ特有のうま味があり、肉や魚や野菜などに含まれています。それはアミノ酸、有機酸、核酸の分解物である窒素化合物による味です。
①グルタミン酸系列
1.L-グルタミン酸ナトリウム(MSG)
昆布のうま味成分として知られ、多くの天然食品の野菜や植物性食品に含まれ、PH7付近で最もうま味が強いです。
②ヌクレオチド(核酸関連成分)系列
1.5´-イノシン酸ナトリウム(IMP)
かつお節のうま味成分で、肉や魚など動物性食品に広く分布しています。
2.5´-グアニル酸ナトリウム(GMP)
しいたけをはじめ、きのこ類に多く含まれています。アミノ酸系のグルタミン酸系と核酸関連系のうま味物質が共存すると、うま味が強くなり相乗効果と言われています。
いよいよ暑い夏が到来。今年は新型コロナウイルス感染流行で、マスクをして過ごすことが多くなり、ますます暑い夏になると思われます。夏に注意しないといけないのが熱中症です。熱中症とは、「体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害」をいいます(環境省)。熱中症がなぜ起こるかといいますと、暑い時や運動をすると体温が上昇します。健康のときは、発汗による気化熱や皮膚に血液を集めて皮膚温を上昇させて熱を逃がす(熱放散)などの体温調節作用で体温の上昇をコントロールできます。しかし、外気温が高くなると発汗がさかんとなり水分やミネラルが多量に失われやすくなります。また熱放散のため皮膚へ血液がたまり全身を循環する血液が不足がちになります。このように脱水と循環不全が起こりやすくなり、それが悪化すると発汗や皮膚の血管の拡張ができず、ますます体温調節が困難となり体温が過度に上昇し重篤な状態になります。このような熱中症を予防するためには、
①暑さをできるだけ避ける工夫をする(暑い時は無理をしない、帽子や日傘を活用する、気象情報をよくみる、室温や体温をチェックするなど)
②こまめに水分を補給する(汗をかくと、水分と一緒にミネラルも失われますので、水分補給だけではなく、ミネラルも補給する)ことが大事です。また食事の工夫として、運動中に糖質や蛋白質が入っているスポーツ用の補助食品を取ると、血漿アルブミン量や血漿量を増加させ、体温調節能が改善します。
中国医学では、夏バテの原因は高温多湿で、疲労やだるさ(気虚)、脱水(津液虚)、ほてり(湿熱)の症状が特徴です。そのため、夏バテ予防として脱水のための水分補給だけでなく、気虚のために気を補う(補気)ものとして、人参、ヤマイモ、なつめなどの食品、湿熱を軽減するために、清熱化湿の食品として、夏の野菜・果物(なす、きゅうり、トマト、ニガウリ、冬瓜、スイカ、パイナップルなど)を摂ることがいいでしょう。また、夏は暑いので、つい冷たい飲料を多量に飲んでしまいがちです。このために胃腸にダメージを与え食欲不振になったりします。このようなときは生姜、なつめ、陳皮、大根、パイナップルなどの胃腸を丈夫にする(健脾)食品を摂るといいでしょう。
参考文献:①日健教誌,2013;21(2):142-153、②Arch Intern Med. 2012;172(6):494-500
③Lancet. 2016 Sep 24;388(10051):1302-10.
遅い時間に夕食を摂ると肥満になりやすいといわれています。その原因として睡眠中の基礎代謝が関連しているのではないかと考えて、健康人を対象に研究された米国からの報告です。対象者は男性10名、女性10名で平均年齢26.0歳、平均BMIは23.2kg/m2(標準体重の人)の健康人です。無作為に2群に分け、遅い夕食を摂る群(A群)は午後10時に夕食を摂り、一方の群は午後6時に夕食を摂ります(B群)。どちらも午後11時に就寝し、翌朝7時に起床します。夕食のカロリーはどちらの群も同じにしています。夕食のカロリーは1日の総カロリーの35%ととして、夕食の炭水化物は夕食全体のカロリーの50%、脂肪は35%を占める食事にしました(注釈:バランスのよい健康的な食事と考えていいでしょう)。夜間および翌朝1時間おきに採血し、血糖値、血中脂質等を測定しました。その結果、午後10時に夕食を摂ると、午後6時に摂った場合と比べて、平均して血糖値は約18%上昇し、夜間の脂質の燃焼は約10%低下しました(脂肪が減りにくいことを意味しています)。したがって夜遅い夕食をずっと続けていると、肥満や糖尿病になりやすいことが示唆されました。また、既に糖や脂肪の代謝が低下している肥満または糖尿病の人では夜遅い夕食は、ますます肥満や糖尿病を増悪させる可能性があります。
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism,https://doi.org/10.1210/clinem/dgaa354
高飽和脂肪食や高炭水化物食を摂取すると、食後に高血糖や高脂血症が起こりますが、同時に体内で炎症も起こり、この炎症は循環器疾患の危険因子となります。そこで、高飽和脂肪食や高炭水化物食を取っても炎症を抑える食品を同時に取れば、炎症が抑えられるのではないかと考え、抗炎症作用のあるスパイスを用いて、食事後の炎症抑制を検討した米国の研究です。対象者は肥満者で少なくとも1つ以上の心血管疾患のリスク要因をもつ40-65歳の男性12人です。対象者は3日間、次の3種類の食事をランダムな順番で食べました。1つは高脂肪と高炭水化物の食事、1つは高脂肪と高炭水化物に2gのスパイスが入った食事、最後は高脂肪と高炭水化物に6gのスパイスが入った食事です。使用したスパイスは、バジル、ベイリーフ、ブラックペッパー、シナモン、コリアンダー、クミン、ジンジャー、オレガノ、パセリ、赤唐辛子、ローズマリー、タイム、ターメリックです。食事前後で採血して、炎症の指標を分析しました。その結果、6gのスパイスを含む食事後には、2gのスパイスまたはスパイス無しの食事後に比べて、血液中の炎症の指標が減少しました。つまり循環器疾患のリスクが低下したことになります。肥満でかつ肥満以外の心臓病リスク要因を1つ以上持っている人では、スパイスは高飽和脂肪食や高炭水化物食の摂取によって引き起こされる炎症を抑える作用があることから、スパイスは心臓病予防効果が期待されると考えられました。
J Nutr2020;150:1600–1609.
新型コロナウイルス感染流行は肺炎などの感染症を引き起こすとともに、これまでにない社会的孤立を招く恐れがあります。2019年、世界保健機関(WHO)は「孤独は健康上の大きな懸念事項である」と宣言しました。人は社会的な動物であり、相互扶助により日々精神的、肉体的に恩恵を受けて生きています。孤独と健康に関するこれまでの疫学研究では、心血管疾患の死亡原因として喫煙だけでなく、①他者からの社会的支援の頻度、②その人が社会的ネットワークをどれだけ持っているかが大きな要因であることがわかりました。また友人が多いほど、病気になる可能性が低く、スポーツクラブや趣味のグループなどに、より参加している人ではうつ病のリスクが25%低下することも報告されています。さらに孤独感は免疫機能を損ない、病気や感染症への耐性を低下させたり、高齢者ではアルツハイマー病などの認知症の発症を促進させます。このように、孤独感はさまざまな健康影響を及ぼすことが明らかになりつつあります。そのため、社会的孤立を招かないように他者との絆を築き上げることが新型コロナウイルス感染流行の時代にはより大切になると考えられます。
Trends in Cognitive Sciences, 2020, https://doi.org/10.1016/j.tics.2020.05.016