初夏の薬膳 沖縄の郷土料理
5月の沖縄には何度も足を運びました。美しいコバルト色の空と海、白い砂浜と雲に出会います。そして沖縄伝統野菜が美味しく健康的に調理された郷土料理は私達の心を開放してくれます。
しかし、コロナ禍では、まずご自宅で沖縄についての下調べを!!今月は初夏の薬膳【島の郷土料理】を紹介いたします。
沖縄と言えば、琉球王朝時代から中国や東南アジア諸国と交流があり、多くの影響を受けて独自の文化が育まれています。食文化については、琉球王朝と関わりの深い琉球大学名誉教授の尚弘子先生が沖縄の長寿を栄養学の観点から研究され、多くの論文や本で発表され、私達も多くを学ばさせていただきました。
沖縄は、県人の知恵と工夫により1980年代に「日本一の長寿県」を記録されています。まさに世界屈指の長寿地域として知られていたのですが、2017年の調査では長寿ランキングは下降し、平均寿命は男性36位、女性7位となってしまったのです。
その原因の一つには、米国型食習慣、自動車による運動不足から肥満症や糖尿病などが増加したと報告されています。
約30年前より徳井先生は産業医科大学で、沖縄の「長寿の里」大宣味村の食と健康に興味を持たれ、役場の保健婦である諸喜用さんの協力で栄養疫学調査を実施しました。台風の多い沖縄では、競争ではなく共同の精神で生きている事、「野菜を育てながら子供や孫のお小遣いを稼ぐ、最後には共同墓地で」と、食の前に“生き方”が長寿に繋がるのだと感じました。
しかし、薬食同源の中国医学の考え、緑黄色野菜類と豆腐と豚肉を使ったチャンプル文化、家族が知人や隣人と泡盛と三味線で島唄を楽しむ、そして食事をする文化、これらが長寿の原点かとも思えました。
大宣味村の高齢者の健康状態が良好な人の食事は、肉類、豆類、緑黄色野菜類、海藻類が多く、芋類も多く食べられていました。そして漬物を三食食べる習慣はありませんでした。
伊江島出身で本学大学院卒の古堅守管理栄養士との再会で、かつてコンビニ一つなかった離島伊江島の高齢者の調査、そして文部科学省の科研で子供達の食と健康について腸内細菌叢で評価する研究を実施し、その問題点を抽出して、中学校を卒業して本島で一人暮らしをして高校に通う子供達のための食育指導書を作成しましたので、今年は学生を連れて報告会をする予定です。離島の子供も福岡の子供も食の問題点は同じでした。
島の子供達を一人残さず文武両道?!勉学にも運動にも優れた人物に育てること、そして島住民の健康づくりに火の玉のような情熱を持っておられる前村長の大城藤正氏、現村長の島袋秀幸氏の協力とご支援のおかげで無事に食育指導書を作成できました。
「100歳まで健康で長生きしたければ、離島伊江島へ来てそのライフスタイルを」と言えるような村作りをされている伊江島です。伊江島での宿泊は、学生や恩師も一緒に“民宿さんご荘”でした。古堅守氏のご両親に多くの島料理を作っていただき、舌鼓する事ができました。
①薬食同源の食文化
薬食同源は中国医学を基本にした考えで、食と薬は源は同じで、食も健康の源であるとの考えです。②沖縄のおかず
沖縄のおかずに使用される島野菜の栄養や機能性については、琉球大学の外間ゆき先生、東盛キヨ子先生の分析結果を、そしてその調理については金城須美子先生に長きにわたりご指導いただきました。ⅰ)チャンプル―(油炒め)
沖縄の伝統的調理方法。豆腐・野菜・肉類を混ぜて油で炒めるだけで、バランスよい一品のできあがり。
ⅱ)ンブシー(味噌を使用した煮汁の多い煮物)
野菜や薬草や野草を使った煮物で、ナーベーラ(へちま)をよく使います。煮汁の出やすい食材を使うので、汁物に近い料理です。味噌が入るのがポイント。
ⅲ)イリチー(煮汁の少ない炒めた煮物)
昆布や切り干し大根や干しいたけや車麩など乾燥保存食品と煮汁の出にくい食材を使用した料理です。
沖縄のおかずは、是非ご参考に!!コロナ禍の家庭料理に最適です。季節の旬の野菜、または家庭にある食材に乾燥保存食品を使って、チャンプル―、ンブシー、イリチ―の調理方法で簡単に一品できあがります。ポイントは、ニンニク、生姜、ハーブ、香辛料、また泡盛も使い分けて、美味しく我が家の味を作ってお楽しみください。
ⅰ)芋
約1600年に芋が沖縄に導入され、主食となり葉も茎も上手に美味しく効果的に食べています。
ⅱ)島野菜
沖縄では緑黄色野菜、野草、薬草が野菜として食べられています。
カンダバー(芋の葉)、フーチバー(よもぎ)、ニジヤナ(にが菜)、サクナ(長寿草)、ゴーヤー(にがうり)、ナーベラー(へちま)、島ラッキョウ、シブイ(とうがん)、パパイヤ、ハンダマ(ずぜんじ菜)、唐辛子、ウッチャン(うこん)、シマナー(からし菜)など
ⅲ)豚肉
仏教による肉食禁忌の影響がなく、主食の芋の葉や皮を飼料として各家庭で畜産が盛んでした。豚を全部利用して、豚骨はソーキ汁、豚足はアシチビル汁(一時間煮込み、油を除き、大根、昆布を入れて煮込む)、耳はミミガーとして、内臓は吸い物に、脂身からラードも取ります。加工肉のランチョンミート、ハム、ベーコン、ソーセージなども郷土の食に使われています。
ⅳ)昆布
江戸時代の琉球の輸出品は砂糖で、北前船でも売られていました。北海道の産物を積み込み、各地の産物を交換売買して下関から大阪へ行く業者から沖縄は昆布を買っていました。台風の時の非常食が乾燥保存食品の昆布でした。豚肉と昆布の組み合わせは抜群で琉球料理にも使われ、この組み合わせはまさに先人の知恵です。
ⅴ)沖縄の豆腐
沖縄の豆腐は堅い木綿豆腐。一丁が本土の3倍で900g前後。油を使用したチャンプルに使われています。生揚げや焼き豆腐も同様に使います。
ⅵ)その他
沖縄ではお茶は多飲されます。一般的には花茶(サンピン茶)。近所の友人、知人との交流にはお茶とお茶うけの黒糖は不可欠です。
この記事がインターネットにアップされたときは、大阪、東京には緊急事態宣言が出されているのではないでしょうか。福岡市でも飲食店に時短要請がでました。第4波が全国的な流行となってきています。一方、ワクチンに関して見通しがたちません。自民党の政調会長が高齢者でも来年になる可能性があると指摘したことが報道されました。世界で最もワクチン接種が進んでいるイスラエルでは、2回の接種が完了しているのは人口の50%、50歳以上の人口の80%以上接種が完了しているようです。この状況の中で、ワクチン接種の効果が検討され研究論文として報告されています。それによるとワクチンを接種した人60万人と接種していない人60万人を比較したところ、発症を予防する効果が94%、重症化を防ぐ効果が92%であり、高い効果があることが示唆されました。残念ながら日本人を対象にした調査ではないこと、イスラエルで使用されたワクチンと同じワクチンが日本でどの程度使用されるのか未定のため、実際日本人にも同程度の効果があるかどうかは現時点ではわかりませんが、発症予防効果は高いのではないかと思われます。
ワクチンがくるまでは、個人防衛としてマスクの着用が重要です。米国ではどのようなマスクの着用法が感染を防ぐ効果が高いのか実験しています。この実験は、感染した人が咳をしたときを想定して、飛沫に似せた粒子を1.8m離れている人が着けているマスクがどの程度吸い込みを防御するかを検討しています。それによりますと不織布のマスクや布のマスクでは50%程度マスク粒子を防御しました。しかし、不織布マスクの上に布マスクをすると85%防御しました。マスクを二重にすると防御効果がより強くなるようです。また、自分は不織布マスクをしていても、隣の人がマスクをしていない場合、自分が隣の人の吐く息を吸う量は7%程度しか減少しませんが、隣も不織布マスクをしていると、80%も減少しました。皆さんがマスクをすることが非常に重要であることがあらためてわかりました。この実験では、マスクが顔にフィットしているかどうかが重要であることもわかりました。特に頬とマスクの間に少しの空間があると効果は減少するようです。二重マスクが一番いいようですが、それによって息がしづらいとか、視野がわるくなるとかがあった場合は、無理をせず1枚でも十分効果はあります。
運動をよくしている高齢者は認知機能が高いとことがわかっていますが、家事のような日常的な動作が認知機能にどのような影響があるのかをよくわかっていません。そこで、高齢者を対象に家事と認知機能について研究したカナダの研究です。
対象者は、健康評価、認知機能評価、および脳検査に参加した認知機能に障害のない高齢者66名(71±4歳)です。対象者には片付け、掃除、食事の準備と片付け、買い物、重い家事、庭仕事などの家事に費やした時間を尋ねました。また記憶や学習機能などの認知機能評価、脳体積測定を行いました。その結果、家事による身体活動量が多い人ほど脳の体積は大きく、認知機能も高いことがわかりました。その理由として、家事は段取りの手順を考えるため脳の神経回路がつながりやすい、家事労働することで、脳によくない影響を及ぼす“座っている姿勢”が少なくなるなどが考えられました。運動量としては少ない家事ですが、脳によい影響があると考えられます。男性も家事を女性に任せず、自分でやることが長寿の秘訣かもしれません。
BMC Geriatrics volume 21, Article number: 104 (2021)
米国で行われた研究では、コーヒー摂取量は肺炎およびインフルエンザによる死亡率を予防することが報告されています。そこで、日本の高齢者を対象にコーヒー摂取量と肺炎の死亡率の関係を検討した報告です。全国24カ所の病院において、65歳以上の肺炎患者199人と、患者と同じ病院に入院している肺炎以外の病気の患者374人について、過去1カ月間のコーヒーおよび緑茶の摂取量を比較しました。その結果、コーヒを飲まない人に比べ、1日のコーヒ摂取量が2杯以上飲む人は死亡率が50%低下していました。コーヒーが肺炎死亡を予防した可能性がある理由として、コーヒーに含まれるカフェインには、呼吸機能改善作用があり、その代謝物であるテオフィリンには、気管支拡張作用、抗炎症作用があります。またコーヒー豆に含まれるアラビノガラクタンには、ビフィズス菌を増殖させる作用があり、ある種のビフィズス菌には免疫細胞を活性化させる機能があります。コーヒーは心臓病や糖尿病予防の効果も報告されており、新型コロナウイルス感染が流行している現在、毎日のコーヒーはその香りで癒しくれるとともに、肺炎を予防してくれるかもしれません。
Scientific Reports volume 11, Article number: 5570 (2021)
新型コロナウイルス感染流行は、世界中に広がっています。英国では40万人の健康情報データが蓄積されており、コロナで重症化した人や亡くなった人がコロナが発症する前にはどのような健康状態であったのかを検討し、注目すべき結果が報告されています。その内容を紹介します。正常体重の人と比較して、過体重および肥満の人が重症化するリスクはそれぞれ26%、49%増加していました。死亡するリスクについては、19%、82%増加していました。肥満の人は、重症化や死亡するリスクが正常体重者に比べ非常に高い結果でした。次に早歩きの人と比較して、平均的な歩き方の人およびゆっくりとした歩き方の人が重症化するリスクは、それぞれ13%、88%増加していました。死亡するリスクは、それぞれ44%、83%増加していました。興味深いことに、肥満でも過体重でも正常体重でも、ゆっくりとした歩き方の人が重症化リスクが高い結果でした。歩行速度は、その人がもつ防衛能力を表しているようです。
International Journal of Obesity、26 February 2021