中村学園大学 教授 三成 由美
太陽がサンサンと輝き、真っ赤なトマトにオリーブ油、ハーブや香辛料の香りが漂うイタリアの町並み。食べること(mangiare)、歌うこと(cantare)、愛すること(amare)がイタリア人にとって、最大の喜びであり生き甲斐であると言われています。イタリア料理は、あまり時間をかけず、地方ごとにその土地ならではの産物を利用し、その材料の持ち味を生かして簡単に作ることができます。
一言でいえば、イタリア料理は、「美味しい(buono)」であり、フランス料理に比べて地味で、素朴で気取ったところがなく、どれを食べても「美味しい(buono)」と心から湧き出てくるような料理なのです。
それは、日本の昆布の旨味成分であるグルタミン酸を多く含むトマト、シイタケなどの旨味成分であるグアニル酸を含むフンギをふんだんに使っているため、旨味の相乗効果で美味しくなるのです。そして、どの料理もオリーブ油やハーブ、香辛料が味をまとめてくれたり、アクセントを付けてくれたりするため、口の中で味の深みが増し、日本人の私たちが食べても美味しく感じるのです。
地理的にイタリアは、フランス、スイス、オーストリアなどと国境を接する南ヨーロッパの中央に位置しており、地中海に突き出た長靴の国イタリア、この国はとても魅力的な国といえます。
特に、ポー川流域は肥沃な平野で、穀物が豊富に取れています。北部は乳製品のバター、チーズ、米、麦、野菜の産地で、味は洗練され濃厚な味付けです。中・南部は、イタリア料理に不可欠なトマトやオリーブを産し、地中海沿岸の新鮮な海の幸を利用した料理もあり、どちらかと言えば、あっさりとした味付けです。イタリア料理は、フランス料理のように調理方法やソースなどが体系化されておらず、各地方の伝統的な料理が根強く息づいているといえます。
しかし、現在のフランス料理のルーツは古代ローマ、そしてルネサンス期のイタリアであったことは興味深いことです。1533年頃、イタリアのメディチ家のカトリーヌ=ド=メディシスが、ヴァロワ朝のアンリ二世に嫁いだ時に連れて行ったイタリア料理人に起因するという説もあります。その頃より、イタリア料理にはハーブや香辛料は不可欠で、使用していた香辛料や砂糖は、金と同等の価値があるほど高価なものでした。
ヨーロッパ最古の医学校が創設されたのは八世紀のことでした。キリスト教の修道院が病気の人を収容して看病を行う僧院医学が主体で、南イタリアのナポリ近郊にあるモンテ・カッシーノに本拠を置くベネディクト派の僧侶たちが、精力的に病人の治療を行っていました。科学的とはいえませんが、それはキリスト教の信仰と愛に基づく医療でした。幸いにも、現在イタリアのアルバーノに在住する私のおばであり、聖パウロ会のバチカン最後の日本人シスターのFatima竹内と一緒にベネディクト派の協会を訪問させていただきました。十一世紀末には医学校の校長を中心に、全編ラテン語の詩の形をとって書かれ、食(ダイエット)を中心に、入浴法や睡眠など生活習慣に関する注意事項を予防医学の見地から、一般の人々にわかりやすく解説したものでした。それが「サレルノ養生訓」です。その養生訓の中にもハーブが紹介されています。イタリア料理など地中海式ダイエットに関心のある人たちは、誰もが赤ワインを飲み、オリーヴオイルを用いることが血清コレステロール値を改善し、血栓の生成を抑制して、それが虚血性心疾患と呼ばれる心筋梗塞などの病気の発生を防ぐことを知っています。また、イタリアを始めとした地中海諸国の料理には、各地の食材をよりおいしくするためにハーブも不可欠であり、そのハーブが健康に寄与する事を知っています。このイタリアのダイエット(食事)を受容する環境が日本人の私達にはすでに整っているのです。
イタリア半島の西にあるサルデーニャ島は先史時代の遺跡が点在し、古来からフェニキア人、カルタゴ人、ローマ人などさまざまな民族がこの島を舞台に活躍していました。昨年12月に男性の長寿者が多いことで有名なこの島を訪れました。島は九州の約2/3の大きさでやや細長い形をしており、160万人の人が暮らしています。現在では島の北部の海岸は世界有数のリゾート地となっています。州都は南にあるカリアリです。島の中央部は山岳地帯が続き、村々が点在しています。この山岳地帯の中にあるペルダスデフォグという村を訪れ、初めて会う村の人に長寿の方を紹介してほしいとお願いしたところ、99歳のおばあちゃんを紹介してくれました。この村には日本の村と違って近隣にはコンビニも大きなスーパーもありません。地元で採れた農産物が日頃の食材でした。おばあちゃんの住居は3階建てで、おばあちゃんの寝室とトイレは3階、娘夫婦は2階、1回は食堂でした。トイレを借りに1階から3階まで上がりましたが、急こう配でかなりきつい階段でした。1日に何回も何回も階段を上がり降りする生活を送られていることが容易に想像できました。長生きしようと思うなら、3階に寝室をつくり毎日階段を行き来するとよいということがわかりました。実際、サルデーニャ島の中で長寿者が多い地域と少ない地域で健康調査をした報告書によると、長寿者が多い地域は、傾斜がより大きく(坂道が多いということ)、羊飼いの仕事をしている人が多い、自宅と仕事場が遠いことなどが特徴であることが報告されています。つまり、日常よく動いている地域に長寿者が多いようです。サルデーニャ島には九州に馴染みのある食材があります。それはからすみで、粉状にしてパスタにかけると絶品でした。
現代人は朝からずっと座っていることが多い生活に慣れていますあ、その間、少しでも運動すると血圧にいいというオーストラリアの研究報告です。対象者は55-80歳の肥満男女67名です。朝からの生活に次の3つの運動パターンを設定しました。①朝から8時間ずっと座っている、②1時間座って、その後30分間の中程度の運動をして、また6.5時間ずっと座っている、③1時間座って、その後30分間の中程度の運動をして、その後6.5時間は30分ごとに3分間軽く歩く以外は座っている。その結果男女とも運動をした場合は、運動しなかった場合に比べて、収縮期血圧が低下しました。男性の場合には、30分ごとに軽く歩行しても血圧がもっと低下することは見られませんでした。以上から、朝運動することは血圧を正常に保つために有効ではないかと考えられました。
Hypertension. 2019;73:859–867
世界一の高齢社会となっている日本では認知症患者数が2025年には約700万人になると予想されています。ところが、アメリカ、イギリス、オランダなどでは、認知症の有病率が最近減少していることが報告されています。認知症は予防可能な病気であるといえます。これまでの認知症の研究をまとめた報告書によりますが、認知症のリスク要因として、中高年では高血圧、肥満、難聴、65歳以降の高齢者では喫煙、抑うつ、運動不足、社会的孤独、糖尿病があげられています。これらの要因がある人はない人に比べ、約1.4倍から1.9倍認知症になりやすいということがわかりました。また、これらの要因がすべてなくなった場合、認知症患者が28%減少することも判明しました。認知症の原因はまだ完全にはわかっていませんが、少なくともこれらの認知症のリスク要因を防ぐような生活を送れば、認知症は予防できる可能性が高いといえます。
Lancet. 2017 Dec 16;390(10113):2673-2734.
加工食品の中で、ビタミンや食物繊維の含有量が低く、飽和脂肪や砂糖、食塩が多く、さまざまな工程で添加物が追加され、長期保存ができる食品を超加工食品と呼ばれています。欧米ではこの超加工食品からのエネルギー摂取量が1日のエネルギー摂取量の25~50%を占めることがわかっています。そのため、超加工食品の摂取は健康に影響するのではないかという心配があり、フランスでは18歳以上の104,980名の人を2009年から追跡調査を行い、がんのリスクとの関連を検討しました。その結果、食事中の超加工食品摂取の割合が10%増加するごとに、がんになるリスクが有意に1.12倍高くなることが判明しました。今後の課題は超加工食品がなぜがんのリスクをあげているのかを明らかにすることですが、欧米ではすでに、超加工食品のリストを作成しており、健康的な食生活の指針として利用できるようになっています。日本ではまだこのようなリストはありませんが、リストの中で日頃食べる食品はできるだけ、新鮮で加工工程の少ない食品を食べるように推薦しています。
BMJ 2018;360:k322 http://dx.doi.org/10.1136/bmj.k322