「開けゴマ」千夜一夜物語において唱えると岩の扉が開かれるわけですが、中東では重要な魅力ある食材であったと思われます。
ゴマは、ゴマ科ゴマ属の一年草。種を蒔いてから2か月足らずで、茎の下から葉の付け根にラッパ状の白い花が咲きます。家で栽培していたので、果実が成熟したら刈り取り、乾燥したものを祖母が叩いて種を収穫していたのを思い出します。
ゴマはアフリカ大陸に自生し、インドで栽培され、古代から今日まで、灯火用、香料、薬、食用油、食材として利用されてきました。種皮の色で、白ゴマは一般的で淡白な香りがあり、黒ゴマは独特な香りがあり皮にはポリフェノールの色素が含まれており、金ゴマは香りが優れ旨味やコクがあり、料理に使い分けて使用する事をおすすめします。日本には奈良時代に仏教と共に伝来されたと伝えられ、禅僧の精進料理として、また懐石料理の基本が作られ、大豆と一緒に利用されていました。
ゴマの魅力は、美味しいだけではなく、栄養成分や機能性のある有効成分が多く含まれているという事です。そのまま食べても消化されず排出されるので、必ず炒って砕いた状態で使います。高品質のタンパク質を多く含み、必須アミノ酸のメチオニン(肝機能と関りがある)が含まれ、脂肪分はリノール酸、オレイン酸(生活習慣病予防に有効)を含み、カルシウム、マグネシウム、鉄、リン、亜鉛とミネラルも豊富で、ビタミンB群、ビタミンEも含んでいます。また、有効成分のゴマリグナンは過熱すると化学変化が起こってセサミンとなり、抗酸化作用を持つため、ビタミンEと一緒になりパワーアップします。さらに不溶性の植物繊維も多く腸の蠕動運動を促し、便秘予防に効果的で腸内環境を良好にしてくれます。
一方、中医学を基本にした薬膳では、帰経で肝・腎・性味で甘・平といわれます。作用としては、滋補肝臓、和血潤腸、滋補強精の作用があり、通便をよくして血行をよくするといわれます。1日20g前後のゴマを食べることを「本草綱目」に記載されています。
ぜひゴマは、炒ってすり鉢ですった“すりゴマ”、指先でひねった“ひねりゴマ”、切った“切りゴマ”などで、毎日の料理に薬味として使うことをおすすめします。
ゴマの歴史は非常に古く、紀元前3000年までさかのぼります。ゴマは人類の最古の農耕文化の一つ、北アフリカやサハラ砂漠南側の農耕文化圏で発祥したとされています。たんぱく質(約20%)、脂質(約50%)の多い、栄養価の高い作物として当時は貴重な食物であったと思われます。高さは1~2メートルの植物で、花は夏に咲き白色から薄紫色です。円柱状果実の中にある多数の種子の色により、黒胡麻、白胡麻、金胡麻などと呼ばれています。シルクロードを通じて西域(胡)から中国へ伝わったことから、胡麻という名がつき、その後日本に伝わりました。中国では本草学のなかで黒ゴマを不老長寿の食物として扱っています。栄養学の機能性からみると、ゴマにはリグナン類という機能性成分が含まれています。リグナン類には、セサミン、セサモリン、セサミノールなどの種類があります。最近はテレビコマーシャルでもお馴染みのセサミンは多くの方がご存知でしょう。セサミンには、血清コレステロール低下作用、アルコール代謝促進作用があります。ビタミンEの作用を増強する働きもあります。セサモリンは、生体内でセサモール、セサモリノールに分解し、悪玉コレステロールの酸化を抑制する作用が期待されています。緑黄色野菜を使った胡麻和えは、野菜に含まれる抗酸成分であるビタミンAやCやポリフェノールとともに、ゴマのリグナン類が豊富に取れるため、和食が生んだ健康食といえます。ゴマを炒った時に生ずる香りのもとであるピラジン類は血小板凝集抑制作用があります。またゴマにはオリゴ糖が多く含まれていますが、高温で炒るほど早く分解します。 70℃、20分では90%残存していますので、通常の料理ではオリゴ糖も十分に取れます。ゴマ油にもセサミン、セサモリン、セサミノールなどが含まれており、ドレッシングなどで使うと、生体内で悪玉コレステロールの酸化を抑制する効果が期待されます。
参考文献:①福田靖子、日本調理科学会誌Vol.40,No.5,297~304(2007)、②株式会社ウチダ和漢薬、生薬の玉手箱
尿路に細菌が住み着き、増殖して炎症をおこしたものを尿路感染症といい、膀胱炎や腎盂腎炎などがあります。急性の尿路感染症の原因の80%は大腸菌で起こります。肉がこの大腸菌感染の原因の1つだといわれておりますが、では肉を食べないベジタリアンは尿路感染症が少ないのかどうか、よくわかっていませんので、ベジタリアンとそうでない人を比べて尿路感染症発症率を検討した台湾の研究です。対象はいろいろなボランテイアをしている仏教徒の集団で、約30%はベジタリアンです。このうち20歳以上のベジタリアン3,257名と、その対照群として非ベジタリアン6,467名に対して、2005年に食生活調査を行い、2014年まで追跡しました。この間の尿路感染症の発生を対象者の健康保険データでチェックしました。その結果、非ベジタリアンの尿路感染症のリスクを1とすると、ベジタリアンは0.84、すなわち、16%も発生率が低い結果でした。男性、女性にわけてみますと、男性はベジタリアンと非ベジタリアンで発症率には差はみられませんでした。しかし、女性では非ベジタリアンの尿路感染症のリスクを1とすると、ベジタリアンは0.82と18%低い結果でした。また喫煙者では差はなく、非喫煙者では非ベジタリアンに比べベジタリアンのリスクは0.80と20%低い結果でした。このような結果が得られた理由として、やはりベジタリアンは肉食でないため大腸菌の感染の機会が少ないことや、ベジタリアン食は食物繊維が豊富な食事なので腸内の大腸菌の生長を抑制していることが、尿路感染症が低い理由ではないかと考えられました。
Scientific Reports | (2020) 10:906 | https://doi.org/10.1038/s41598-020-58006-6
低炭水化物食や低脂肪食は生活習慣病予防によいといわれますが、明確な結論はでていません。そこで健康的な炭水化物や脂肪とそうでない炭水化物や脂肪の摂取が死亡率にどのように影響するのか検討した米国の研究です。対象者は、1999年から2014年まで追跡した20歳以上の国民健康栄養調査対象者37,233名です。ここでいう健康的な炭水化物とは、質の低い炭水化物を減らし、植物性たんぱく質と不飽和脂肪酸をより多く摂ること(精製された穀類や砂糖が添加されたものではなく、全粒穀類や炭水化物の少ない野菜、皮を含めた果実)、健康的な脂肪とは、飽和脂肪酸を減らし高品質の炭水化物と植物性たんぱく質を多く摂ることです。研究の結果、低炭水化物食と低脂肪食は総死亡率と関連していませんでした。 不健康な低炭水化物食と低脂肪食は高い総死亡率と関連し、健康な低炭水化物食と低脂肪食は、総死亡率の低下を示しました。つまり炭水化物や脂肪は、これらの栄養素がただ摂取量が低くければいいということではなく、その品質やどんな食物から炭水化物や脂肪を取るかが重要であることがわかりました。
JAMA Intern Med.doi:10.1001/jamainternmed.2019.6980
クルミを食べると腸内細菌叢に影響して心臓病予防効果があるという研究があります。そこで、腸内細菌叢に対するクルミ効果はどのような成分が効いているのかを検討した米国での研究です。次の4つの食事を準備しました。①標準的な米国の食事、②クルミが入っている食事、③クルミに含まれているαリノレン酸をそのまま添加した食事でクルミは入っていない、④③の食事のαリノレン酸をオレイン酸に変えた食事。4つの食事の栄養素の違いは、①は心臓病リスクを上げる飽和脂肪酸を多く含み、②、③、④は心臓病リスクを軽減する多価不飽和脂肪酸を含みます。ただし、カロリーや炭水化物、タンパク質、食物繊維はほぼ同じです。対象者は、過体重、肥満者の42名(30~65歳)で、まず、2週間、①の食事を摂取し、その後3つのグループに分け、②、③、④の食事をしてもらいました。その結果、②のクルミを含む食事を摂取すると、健康増進に役立つ特定の細菌が増加するとともに、これらの腸内細菌の変化は、心臓病のリスク因子を改善しました。心臓病予防には、クルミを食べることがいいという理由は、クルミの中のさまざま成分が効いているのではないかと考えられています。
J Nutr 2019;:1–12. doi: https://doi.org/10.1093/jn/nxz289.