クチナシはアカネ科の常緑の低木です。梅雨があがり、初夏の頃になると家の庭先に甘い芳香のする白い花が咲き始めるのです。
中国人は花の香りを大事にすると、留学した時に指導教授より教えていただきました。山梔子と梅、百合、菊、桂花、茉莉花、水仙は七香として貴ばれているとのことでした。そして、タヒチの女性の髪に飾る花もクチナシの花なのです。その花が秋になると橙黄色に実り、果実は色素を含み黄金色は、植物分類学的には異なるサフランとクチナシではありますが、黄色の色素は同じカロテノイドのクロシンとクロセチンを含んでいるのです。そして、カロテノイド色素には抗酸化作用や抗がん作用も期待されています。その果実は黄熟し先端には6本の突起があり、釣りをするときの「ウキ」のような形をしていますが、中国名では山梔子で梔は酒を盛る大きな容器のことをさして、形状が似ているので名づけられたとのことです。乾いた果実は中国伝統学の薬膳食材として使用され、吐血、利尿に伴う疾病に効果があるといわれ、1回7-10gに煎じて利用されていました。中国の中国医学の古典、神農本草経の中にも収載されています。
そこで今回は、クチナシ色素を使った調理品を紹介します。石仏で有名な大分県の臼杵市の「黄飯」。クチナシの実を水に浸し加熱して濃い黄色を抽出したその水で炊いたご飯は、香りと黄金色の華やかで郷土のお祝いの料理となっています。この地方では黄色は魔よけ、厄除けの色と考えられていました。江戸時代以前に臼杵を治めていたキリシタン大名といわれた大友宗麟の時代にスペイン料理のパエリアを模して作られたという説もあります。
一般の家庭ではクチナシはお正月料理の栗きんとんやクワイの黄金煮に使われています。クチナシ1本は半分に割り、水50ccに水浸して一度加熱して調理に使用すると色が濃く少し紅みがかった黄金色が楽しめます。チャウダーや牛乳寒天を黄色く染めた調理品も作ってみました。また、大根やかぶを菊花に切って3%の塩水に漬けてその後甘酢に漬けますが、黄色に染めるとエキゾチックな酢のものになりました。是非、お楽しみください。
クチナシの木は1~3m程度の高さになり、6月から7月の初夏にかけて白い花を咲かせます。10月から11月にかけて橙赤色の卵型の果実をつけます。この果実は熟しても開裂しないことから「口無し」と付けられたという説や、果実を梨に見立て、果実の上の部分を口と考え、「口を持つ梨」から由来したなどという説があります。クチナシの花は、香水の原料やお茶の香りづけなどに使われます。果実にはカロチノイド系色素であるクロシンという色素を含んでおり、飛鳥時代から黄色の染料として利用され、たくあんや、栗ごはんなどの黄色の着色に用いられてきました。果実は漢方薬としても利用され、山梔子(さんしし)や梔子(しし)といわれ、消炎、止血、胆汁分泌促進、解熱、鎮静、胃液分泌抑制、整腸、緩下などの作用があり、病気としては黄疸、諸出血、炎症、食道狭窄などに用い、民間では粉末を黄柏(おうばく、漢方薬)とともに酢で練り打撲傷に外用します。
なお将棋盤の足にはクチナシの果実がかたどられており、「他人の勝負には口を挟まないように」という戒めがこまられているようです。
参考文献:日本のメディカルハーブ事典、東京堂出版
難波恒雄、薬膳原理と食・薬材の効用(3)、口本調理科学会誌Vol.33,No.2,149(2000)
我が国の2017年のデータでは肺がんは男性の死亡原因の1位です。がんの発生率(2014年のデータ)では胃がんついで2位となっており、肺がんの予防は重要な課題となっています。その肺がんを予防する食事についての研究報告です。対象者は、米国、欧州、アジアで行われた10件の研究の対象者約144万人で、男性が約62万人(平均年齢57.9歳)、女性が約82万人(平均年齢54.8歳)です。約9年間対象者を追跡して、18822人の肺がん患者が認められました。そこで、調査開始時に調べた食生活とその後の肺がんの発生率を比較しました。その結果、食物繊維を最も多く摂取している群は最も少なく摂取している群に比べ、肺がんの発生率が17%低い結果でした。またヨーグルトを最も多く摂取している群は最も少なく摂取している群に比べ、肺がんの発生率が19%低い結果でした。次に食物繊維を最も多く摂取し、かつヨーグルトも最も多く摂取している群はヨーグルトを食べず、かつ食物繊維の摂取が最も低い群に比べ、肺がんの発生率は33%も低い値でした。食物繊維もヨーグルトも腸内細菌叢に働き、いわゆる善玉菌を増やす働きがあります。この善玉菌の働きが肺がんを予防しているのかもしれません。
JAMA Oncol. doi:https://doi.org/10.1001/jamaoncol.2019.4107
高齢者ではビタミンDが骨格筋の強さに影響するという英国での報告です。対象者は60歳以上の高齢者(平均年齢69.8歳)で筋肉の強さの測定として握力検査、筋肉のパフォーマンスの測定として簡易身体パフォーマンス調査を行いました。ビタミンD摂取量の評価は、血清中の25-ヒドロキシビタミンDを測定し、30nmol/L未満をビタミンD欠乏としました。その結果、筋肉の強さが低下している人の割合は30nmol/L未満の人が40.4%、50 nmol/L以上の人は21.6%と、ビタミンDが低い人は、筋肉の強さも低いことがわかりました。また筋肉のパフォーマンスが低下している人の割合も、それぞれ、25.2%と7.9%となり、ビタミンDが低い人は筋肉のパフォーマンスも低い結果でした。したがってビタミンD欠乏は高齢者の筋肉機能低下を引き起こす可能性があることが示唆されました。ビタミンDは魚やキノコに多く含まれており、しいたけは紫外線でビタミンDが増えますので、食べる前に天日で干してから食べるといいでしょう。
Clinical Interventions in Aging 2019,Volume 2019:14 Pages 1751—1761
犬を飼っていることと循環器疾患の再発リスクの関連を検討したスウェーデンの報告です。対象は40歳から85歳の心筋梗塞患者(約18万人)、または脳卒中患者(約15万人)です。これらの患者さんで犬を飼っている人の割合は約5%でした。心筋梗塞になった後に再発で死亡するリスクは、犬を飼っている人は犬を飼っていなく、かつ一人住まいの人に比べて33%低い結果でした。また犬を飼っていなく、かつ家族と住んでいる人と比べても15%低い値でした。脳卒中になった後に再発で死亡するリスクは、犬を飼っている人は犬を飼っていなく、かつ一人住まいの人に比べて27%低い結果でした。 また犬を飼っていなく、かつ家族と住んでいる人と比べても12%低い値でした。犬を飼うことは、循環疾患の再発を予防する効果があるようです。その理由の1つとして、犬を飼うことで散歩に行ったりして身体をよく動かすことや孤独のストレスの減少があるのではないかと推測されています。この研究では、タバコなどを考慮していないので、さらに研究を続けていく必要があると考えられていますが、犬好きの人にとってはグッドニュースです。
Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes. 2019;12,No10