1年で一番美しい春の到来とともに桜の花、菜の花が咲き始め、葉桜になる頃レンゲやスミレの花が香り豊かに咲きます。その隙間からヨモギが芽を出し、若葉が広がっていきます。
ヨモギは、キク科の多年草で私達の家の近くから山野の草地にいたるまで地下茎を伸ばして広がっていきます。葉の表面は緑色、下の葉は白色の毛が密生しています。成分はビタミン類やタンニン類のクロロゲン酸を含みます。
ヨモギとの始めての出会いは幼少の頃で、とても感動したことが思い出されます。
自転車を買ってもらい、山野を走っていたら転んで止血にと、山道を歩いていた老人が生葉を摘んで、その汁を切り傷につけてくれました。血が止まり、この草は凄いと。
そして自宅に帰ると、祖母の手つくりおやつが準備され、口に入れると美味しくて痛みを忘れて数個食べました。それが何とヨモギの若葉を茹でて作った草餅だったのです。緑色の食材がまさにヨモギで、昔から民間療法で食用に、薬用に、美容にと使われていたのです。
今回は簡単に家庭で作れるヨモギ料理を5品紹介します。
まずヨモギは茹でたものを使うことが多く、緑色に茹でるポイントは熱湯に塩を入れ、ふたをせず茹でて、葉がグリングリンになったら氷水に入れ、空気を遮断します。茹でたヨモギの保存は冷凍が一番です。
今月から日本の薬草と健康についてご紹介させていただきます。その理由は、現代ではいわゆる西洋ハーブが人気ですが、日本で取れる薬草にも注目すべき点が多いからです。もともと日本人は地産の薬草を民間療法など暮らしに上手に活かす知恵を伝承してきました。科学技術が発展しても欧米の食べ物がそのまま日本人の体質にも合う保証はありません。長い間の食経験は科学技術よりも、日本人に何が合っているのかを教えてくれる貴重な情報です。ただこのシリーズでは原産地が日本でなくても、昔日本に伝わり今の日本人に馴染みのある薬草も紹介する予定です。ここでいう薬草とは、何らかの機能性を持ち、日常の食生活に少量活用することで食生活を豊かにしてくれるものと考えています。
1回目はよもぎを選びました。よもぎは北海道から沖縄まで自生しており、沖縄では葉をフーチバと呼び、クスイムン(薬になるもの)の1つとして沖縄料理に使われています。お灸で用いられる艾(もぐさ)はよもぎの葉の裏にある繊毛を集めたものです。またよもぎの葉は生薬では艾葉(がいよう)と呼ばれ、下痢、吐血、婦人の不正性器出血や帯下に効果があると言われています。よもぎの葉の精油にはシネオールやテルピネオールという成分が含まれており、抗菌作用や抗炎症作用が報告されています。怪我をしたときによもぎをすりつぶして患部に塗ったことがある方がおられるのではないでしょうか。またよもぎをエタノールで抽出したもの(よもぎエキス)を動物に与えると糖尿病予防効果が報告されています。春の新芽を取ってきてよもぎ餅をつくられてみてはどうでしょうか。
サプリメントと食品とどちらが健康増進に役立つのか、サプリメントや食品の摂取と死亡リスクを検討した米国の研究です。対象は20歳以上の30,899人で、過去30日間のサプリメントや食品の摂取を調べ、それぞれからの栄養素等摂取量を算出しました。これらの栄養素摂取量と全死因、心血管疾患による死亡、がんによる死亡との関連を調べました。その結果、ビタミンKとマグネシウムの適切な摂取量が死亡リスクの低下と関連していました。またビタミンA、ビタミンK、亜鉛の適切な摂取量が心血管疾患の死亡リスクの低下と関連していました。ところが、不思議なことに、これらの栄養素を食品から取っている人はこのような関連が見られたのですが、主にサプリメントからこれらの栄養素を摂取していた人には死亡リスクの低下は見られませんでした。またサプリメントからカルシウムを1,000mg/日以上取っている人にはがんの死亡リスクが逆に増加していました。サプリメントからも栄養素は摂取できますが、健康増進にはきちんと食品から栄養素を取ることが大事なようです。
Ann Intern Med. 2019. DOI: 10.7326/M18-2478
ヒトは年とともに、さまざまな生体機能が低下してきます。その中で筋肉量は歩行など日常の活動に重要ですが、筋肉量も例外なく老化とともに減ってきます。一般的に筋肉量は女性は20代、男性は30代にピークを迎え、それ以後は年間1%ずつ減少していきます。 20代に比べ50代では20%、60代では30%も筋肉量が違ってきます。また下半身の大きな筋肉から減っていくため、歩行などに障害をきたすことにつながります。タンパク質の摂取不足は中高年齢者の筋肉量減少の1つの要因です。そこで、1日にどのくらいタンパク質を取ると歩行に影響してくるのかを検討したさまざまな研究をまとめた報告があります。それによりますと、1日に体重1㎏当たり0.8gの人は、1.0gから1.2g程度とる人に比べ、歩行機能が弱る結果でした。現在の日本は高齢社会ですが、高齢者のタンパク質の摂取量はそんなに多くはありません。体重60kgの方は、1日に約60gのタンパク質を取るといいでしょう。卵1個におよそ6gのタンパク質が含まれています。ごはん茶碗1杯には約5g、ロールパン2個で約6gのタンパク質が含まれています。肉か魚1人前でざっと20g程度です。毎食タンパク質を取ることが大切で、夕食だけタンパク質を多く取っても筋肉の合成にはつながりにくいことがわかっています。ただ、タンパク質をたくさん取れば取るほどいいかといえばそうでもなく、腎臓に負担をかけることがありますので、体重1kg当たり1g程度がいいでしょう。この他タンパク質の摂取量が少ないと、肺炎などの感染症にかかりやすいということも言われていますので、毎食タンパク質を取るよう心掛けましょう。
Nutrients. 2018 Sep 19;10(9). pii: E1330. doi: 10.3390/nu10091330
認知症の原因の1つとして、脳の免疫細胞における慢性的な炎症が指摘されています。老化とともに炎症反応は防ぎようがないのですが、食物繊維を摂取することにより炎症の影響を抑えることができるという米国の実験報告です。実験は動物の老年マウスを対象に水溶性食物繊維(海藻類、こんにゃく芋、果物、野菜、芋類などに含まれるペクチン、グアーガム、グルコマンナン、アルギン酸など)を豊富に食べさせる群と少ない群の2群に分け、血液中の酪酸塩を測定して比較しました。その結果、豊富に食べさせた群の酪酸塩は有意に高い値を示しました。この酪酸塩は水溶性食物繊維を取ることで腸内細菌が産生するもので、脳の免疫細胞で起こる炎症を抑える働きあります。そのため、水溶性食物繊維を取ることで、酪酸塩ができ、脳の炎症を抑え認知症の予防につながるというわけです。興味深いことに、若年のマウスでも同じように実験したところ、水溶性食物繊維が豊富な群と少ない群で酪酸塩には差がありませんでした。この結果から、若いときは食物繊維の摂取量が少なくても炎症を抑える生体の機能が十分にありますが、年をとるとこの生体機能が低下するため、脳の炎症を抑えることができないことがわかります。老化とともに、炎症を抑えるためには食物繊維を沢山とることが大切だと考えられます。
Front. Immunol., 14 August 2018 | https://doi.org/10.3389/fimmu.2018.01832