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2018年11月 秋の薬膳 タイ料理

タイ料理の特徴

 タイは東南アジアの中心地で、かつてはシャムの名で知られていた。ミャンマー、カンボジア、ラオスの3国に囲まれ、南はシャム湾に臨み、西洋の技術を消化して中国文化とインド文化が入り混じったエキゾチックな熱帯地である。料理の特徴は、熱い気候のために赤唐辛子のプリックをベースにした調味料フンケン、そしてナムプラーという魚を発酵させて作ったしょうゆやえびの塩漬けをペーストにしたカピが料理の基本になっている。石臼と石杵でつぶしてハーブ、スパイス、タイの匂いといわれるパクチーにレモングラス、ミント、ディル、バジル、ターメリックが色付け、香り付けに使われている。代表的な料理にトム ヤム クン(えびとプラムのスープ)、トム ウン セン(はるさめといかのサラダ)、カノム チャン(ココナッツミルク入り菓子)がある。
参考文献:楠 喜久枝,吉岡慶子,松隈紀生,三成由美:基礎の応用と調理学実習(1995)

世界の郷土料理と健康:タイ編

 タイの料理といえば、有名なトムヤムクンがあります。タイ語でトムは煮る、ヤムは混ぜる、クムは海老の意味で、海老を煮込んだスープです。食材は海老の他には独特の香りのハーブ、コリアンダーやレモングラス、唐辛子、ココナッツミルクなどが使われます。コリアンダーは中国では香菜、日本ではパクチーとしておなじみです。コリアンダーには抗酸化、抗癌、神経保護、抗不安、抗けいれん、鎮痛、片頭痛緩和、コレステロール降下、血糖降下、降圧、抗菌、抗炎症活性など、多彩な機能性が報告されています。レモングラスはシトラールという精油を含み、万病のもとになる炎症を抑える抗炎症作用、抗菌作用、抗癌作用を有します。タイ料理でよく使われる発酵食品としてナンプラーがあります。ナンプラーは、カタクチイワシを大量の食塩(原料魚に対して約20 ~30%)に漬け込み、数カ月以上じっくりと発酵させ、主に魚自身のタンパク質分解酵素の作用により作られる調味液です。発酵した魚からアミノ酸やペプチドが遊離し、独特の旨みを呈します。現在は減塩が盛んにいわれておりますが、ナンプラーには食塩をたくさん使います。東南アジアは感染症が多いため、食品の塩蔵は食品衛生上重要な意味があり、食塩で食品の安全性を高めている知恵です。最近の研究では、ナンプラーは生体内で発生する過酸化水素を除去する働きが報告されています。過酸化水素は細胞に障害を与える作用があります。このように伝統食には、健康維持・増進のさまざまな機能性を有しているものが多く、科学技術が進んだ現代でも古くから伝えられている食文化は大切に守っていく価値があります。

  • 炭水化物をたくさん取って糖尿病予防

     植物性食品だけをとることで糖尿病の予防効果があるかどうかを検討した米国の研究です。肥満指数(BMI)が28以上(太っている人)の75名を①植物性食品だけを取るグループと②普段の食事を取るグループにわけました。①のグループは動物性食品を取らず、調理油は1日20gから30gに制限しますが、他の食品は制限がなく、カロリーをいくら取っても良いことにしました。一方、②のグループは肉や乳製品など普段の食事を取るグループです。このような食事を16週間継続してもらい、BMI、体重、体脂肪量、内臓脂肪量、インスリン抵抗性の変化を検討しました。その結果、①のグループは果物や野菜、全粒穀物や豆類の摂取が増え、1日の食物繊維摂取量は24gから38gに増加しました。BMI、体重、体脂肪量、内臓脂肪量、インスリン抵抗性は①のグループが②のグループに比べ、有意に低下しました。つまり植物性食品をベースにした食事は糖尿病のリスク要因を改善する効果があることが示されました。 

    Nutrients 2018, 10, 1302; doi:10.3390/nu10091302

  • 乳製品は心臓病の予防になるか

     世界の21ヵ国、35–70歳までの約14万人を対象に心臓病を予防する食事を検討したカナダの研究です。これまで心臓病を予防する食事の研究は先進国で実施したものばかりでしたが、いろいろな国も含めた研究は今回が初めてです。乳製品としては、牛乳、ヨーグルト、チーズを調べました。その結果、牛乳とヨーグルトは1日1回以上取っている人はぜんぜん取っていない人に比べ、心臓病のリスクが低いことがわかりましたが、チーズの摂取は心臓病の予防効果はみられませんでした。また果物・野菜・豆類・魚類・乳製品・生鮮肉を多く摂取している人は、少ない人に比べ、長寿であることもわかりました。興味深いのは、肉は生鮮肉(ソーセージ、ハムやベーコン等の加工肉でないもの)はリスクを下げる効果があるということです。沖縄県は肉の消費量が多いのですが、沖縄県の長寿は生鮮肉の料理を多く食べていることが関係しているかもしれません。

    Lancet, https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31812-9

  • 健康寿命を延ばす食事は?

     これまでは病気を持っているかどうかより、とにかく長生きすることが大事とされていたましたが、最近は慢性疾患がなく身体機能や認知機能に問題がなく健康的に年をとる、つまり、健康寿命の重要性が指摘されています。この研究は高齢者を対象に健康寿命を延ばす食事を検討した米国からの報告です。平均年齢74歳の2622名の高齢者を最長14年間追跡して、血液中のオメガ-3系多価不飽和脂肪酸と健康寿命の関係を検討しました。オメガ-3系多価不飽和脂肪酸は皆さんご存知の青魚などに多く含まれている脂肪酸で、種や葉野菜にも含まれています。これらの食品を多くとると血液中のオメガ-3系多価不飽和脂肪酸は増加します。血液中のオメガ-3系多価不飽和脂肪酸が最も高かった人は、最も低かった人に比べ、健康的な加齢が送れないリスクが18%も低いことがわかりました。つまり、オメガ-3系多価不飽和脂肪酸が高い人は健康寿命が長いことが判明しました。日本人は青魚を食べる習慣がありますが、たびたび食べることは難しいと思われます。しかし、幸いなことに、青魚の缶詰にはオメガ-3系多価不飽和脂肪酸が多く含まれています。1缶200円前後ですから、これで認知症予防や生活習慣病予防ができるとすれば大変経済的です。

    BMJ 2018;363:k4067 http://dx.doi.org/10.1136/bmj.k4067