これまで脂肪摂取、特に飽和脂肪酸の摂取が高いと循環器疾患のリスクが高くなるといわれてきました。ところが、ここ数年、脂肪の摂取が高くても循環器疾患のリスクは高くないばかりか、むしろ低いという報告がでるようになりました。栄養学の分野では時々観察されることですが、以前の報告と異なる報告が時代が進むと出ることがあります。1980年代コーヒー摂取は癌を引き起こすという報告が出ていましたが、1990年代に入ると逆に癌や循環器疾患を予防する報告がでるようになり、現在ではコーヒーは生活習慣病の予防効果があることが認められています。また血清コレステロールが高い方は卵を控えた方がいいといわれてきましたが、現在では卵を食べても血清コレステロールには影響しないことは既に判明しており、やっと日本もこの迷信から逃れることができました。
脂肪摂取と循環器疾患リスクに関する一番新しい報告は今年の8月に出ました。18カ国15万人の人が参加し約7年間観察した研究報告です。その結果は脂肪摂取や飽和脂肪酸摂取が高くても、死亡リスクや循環器疾患リスクは高くならず、むしろ低いという内容でした。一方炭水化物の摂取が多いと逆に死亡リスクや循環器疾患リスクが高くなりました。幸い、日本人の現在の平均的な脂肪摂取量や炭水化物摂取量は極端に高くも低くもないため、すぐに健康に問題が起こることはないと思われますが、健康診断で脂質や血糖、体重などに問題がある人は主治医の先生とよく相談することが大切です。
栄養・運動・休養は健康の源です。
このコーナーでは、世界の最先端の栄養・運動・休養に関する情報をお届けします。
是非、健康生活の参考になさってください。
料理やワインなど、高い値段がついていると、味もさぞ美味しいと想像します。本当に美味しいこともありますが、心理的な効果で味は普通なのに非常に美味しいと思うことがあります。なぜこういうことが起こるのかをワインを使って調べたドイツの研究です。対象者は54名(平均年齢29歳)で、平均的な価格のワイン(12ユーロ:約1600円)を使いました。試飲するときに、ワインの価格を対象者に3、6、18ユーロと無作為に教えて、飲んでもらい、その美味しさを9段階で評価してもらいました。試飲しているときの脳の活動をみるために、対象者はMRI(磁気共鳴画像)も同時にとりました。その結果、予想通り、高い価格を言ったときの方が、低い価格を言ったときより、美味しさの評価が高くなりました。高い価格を言うと、脳の報酬と動機づけに関与する領域がより活性化され、高い価格(報酬)が美味しい(動機づけ)という味覚を高めていることが推測されました。価格にだまされないためには、味覚をしっかり訓練する以外ないようです。
出典:SCIENTIFICS REPORTS 7: 8098 DOI:10.1038
仕事などで、座位の時間が長いと生活習慣病になりやすいといわれています。しかし、仕事の合間に少しだけ歩けば生活習慣病の要因となる中性脂肪などを減らすことができるというニュージーランドの研究です。対象者は36名で、1日目に次の4つの座位と歩行の組み合わせの中で1つのものを選んで実行します。
①長時間の座位のみ、
②長時間の座位と1日目の終わりに30分間の徒歩、
③座位の合間に、30分ごとに2分間中程度の運動強度(ややきついと思える程度)で歩く、
④上記の組合せとして、②と③を組み合わせる。
1日目に同じ食事をして2日目に中性脂肪、血糖を測定しました。
その結果、中性脂肪や血糖の値が一番低くなったのは④で、次が③でした。③は30分間に1回気分転換などをかねて2分間歩く内容ですので、実行しやすいと思われます。座位の姿勢が長い人はぜひトライしてみてはいかがでしょうか。
出典:Journal of Clinical Lipidology,11(5), 1268–1279,2017
米国がん研究所と世界がん研究財団が食事、体重、身体活動と大腸がんのリスクについて、世界中の文献(99個)を調べ、2900万人のデータを解析して次のことがわかりました。
①適正な体重を維持する(肥満にならない)、
②身体を動かす(運動、散歩)、
③食物繊維の多い食物をとる(例:玄米、全粒粉など)、
④赤肉(週500g未満)、加工肉は控える、
⑤アルコールも控える(1日アルコール量は30g未満:大瓶ビールで1本程度)。
これら①から⑤までを習慣的に行うと大腸がんの約50%が予防できることが判明しました。
また、乳製品、ビタミンC、ビタミンD、魚も大腸がん予防に効果が期待されることがわかりました。これまでの大腸がん予防の研究報告の中で最も信頼の高い内容です。以前は欧米に多かった大腸がんですが、今では日本も大腸がんが増加していますので、ぜひ、参考にしてください。
出典:“Diet, nutrition, physical activity and colorectal cancer”、American Institute for Cancer Research、World Cancer Research Fund International