中村学園大学薬膳科学研究所において所長の徳井先生と三成は、中医学基礎理論に基づき、先人の知恵と経験から生まれた薬膳に現代医学や栄養学の成果を取り入れた健康モデル食、日本型薬膳の研究に取り組んでいます。薬膳は、季節ごとにその土地の気候・風土にあった食材や個人の体質に適した食材を選び、色・香・形・味などすべてに満足できるように調理していきます。毎日食べて美味しい、健康増進に貢献できる食事なのです。
つまり、気候・風土に合った食事が郷土の伝統食、季節に合った食事が行事食、個人に合った食事がいわゆる家庭料理でこれも薬膳なのです。
その食事の評価に腸内環境改善法を取り入れ、次世代シーケンス(NGS)アンプリコン解析による腸内細菌叢の分析研究もしています。これまでにも産学官連携で多くの薬膳料理や食品を開発してきました。
初夏は暑さと湿に注意が必要です。
予防には清熱が必要で寒性、涼性の食材が効果的です。
夏の旬の野菜こそが中医学の寒性、涼性の食材でトマト、きゅうり、ナス、ピーマンそしてにがうりなどです。表面の色が美しく鮮やかですね。野菜は紫外線による酸化作用に勝てるためのポリフェノール類やビタミンA、ビタミンCそしてビタミンEが含まれています。まさに各野菜が夏の暑さによる脱水や紫外線によるダメージを少なくするための自主防衛に不可欠な成分を持っているのです。実は野菜の恵みを私たちはいただいているのですね。夏、気温が上昇すると、私たちは体温調節も大事なことです。体から汗が出る、体がむくみ疲れが出てくると、まさにミネラルであるカリウム、ナトリウム、カルシウムが不可欠です。夏野菜には多く含まれており、腸内環境改善のための食物繊維も豊富です。特にトマトにはグルタミン酸や酸味クエン酸やリンゴ酸も含まれていて、疲労回復にも有効です。古くから郷土の料理に取り入れられた旬の野菜はその季節に必要な健康に生きるための栄養素を多く含んでいるのです。
また、山椒、木の芽、紫蘇、生姜、茗荷など香味食材は食欲が落ちる時、食欲を増進させる機能もあります。
2015年イタリアで開催されたミラノ国際博覧会へ行ってきました。
日本館への来場者数はことのほか多く、2012年12月にユネスコ無形文化遺産の登録を受けた「和食」への注目度に応えるが如く世界に向けて、次のようなアピールを行っていました。日本人の自然への敬意や感謝する心、動物性脂肪を多用せず、うま味を活かした米、汁、魚や野菜の一汁三菜、栄養のバランスがよく、持続可能な未来食であることを、展示をとおして紹介されていました。博覧会のテーマは「Feeding the Planet, Energy for Life」(地球に食料を、生命にエネルギーを)でしたので、和食のよさを展示することは時宜を得たものであったと感じたのです。やはり、日本館は博覧会国際事務局が主催する展示デザイン部門において、金賞を受賞したのです。『日本の各地域の風土に根ざした四季の伝統的な年中行事ともに発展した行事食、さらに豊富な水と新鮮な食材を活用した郷土の料理の紹介』等、自然と技術の「調和」が高く評価されていたのです。
栄養的にバランスがよいと言われる日本食ですが、日本人の食事摂取基準(2020年版)において、目標量に満たない栄養素は食物繊維です。徳井先生と四季ごとに4週間ずつ、16週間にわたる長期食生活調査を実施しますと、有効データ34名において、季節別に総食物繊維摂取量の寄与率の高い食材の第1位は精白米であり、全体の10.3%を占めていました。穀物の摂取は年々減少傾向ですが、主食である穀物を全粒穀物も取り入れるなど工夫も必要かと思われます。
福岡は中国大陸と朝鮮半島、アジアの大陸と近接した位置にあり、農耕の技術が伝えられ、お米の味をどの地域よりも一番早く知りえた地域なのかもしれません。外来文化の窓口として博多港が栄え、迎賓館として鴻臚館が作られました。命がけで海を渡った留学生や僧侶を送迎した場所でもあるのです。
福岡は玄界灘、有明海、周防灘の3つの海、筑後川、遠賀川、山国川など豊かな水に恵まれ筑紫平野や福岡平野があり新鮮な海の幸、山の幸が豊富です。福岡県を【1】北九州、京築【2】筑豊【3】筑後【4】福岡と4つのエリアに分けて見ました。今回は私の生まれ育った北九州、京築エリアの郷土料理を紹介いたします。
京築は県東部の位置で、江戸時代の中津街道の宿場町として栄えた地域です。東側は周防灘に面して瀬戸内海式気候のため温暖ですが、冬になると日本海式気候です。
私の生まれた上毛町の食事は鰤、鰡、鯛、べた(舌平目)赤海老、シバ海老、渡り蟹など海の幸が朝から刺身、洗い、煮つけで食卓に登場していました。
そして、三方が山に囲まれ農業は盛んで、裏作で大麦、小麦が作られ小麦粉を粉に挽いて、芋もち、焼きもち、南瓜と一緒に味噌仕立てのだご汁が作られていました。山間部では山の田畑は狭く、春は山菜、秋はなば(キノコ)を家族で採取、それが楽しみでした。
北九州は玄海灘に面して鯖や鰯が水揚げされ、小倉の鰯の糠味噌煮は郷土の代表料理です。小倉藩主になった小笠原公が日常食として使用していた床をいつも大事にされていたそうです。
私の小倉の友人宅も先祖代々受け継がれ100年以上伝承されたぬか床があり、マスコミの取材の度に分けていただきました。
69年福岡県内に住んでいますが、最高に暮らしやすい大好きな福岡県です。
①べた餅
かって田植えの朝は朝5時に起きてあぜ道から作り、7時に田植えがスタ-ト。
食事は小豆の飯を炊きお握り、おかずは塩鯖を焼き、胡瓜もみ(胡瓜・油揚げ・胡麻の酢の物)」
ささげ豆、じゃが芋、玉葱に牛肉が少し入った煮物だったそうです。
特におやつは上等の小麦粉に塩と水を入れて捏ねて丸く伸ばして茹でたべた餅。
きな粉や小豆あんをまぶして楽しんだそうです。
②えびざっことそうめん
豊前海では芝海老によく似た小海老が生息し6月から8月に水揚げされ、価格は安く美味しく。
夏休みのお昼は、海老に酒、砂糖、醤油を入れて煮て、その煮汁にそうめんのつけて食べていました。手早く調理できるし、海老の旨みが凝縮して美味で、そうめんと言えば海老ザッコでした。
今日、若い助手や講師と試食したら癖になると。是非お楽しみください。
③あちゃら漬け
夏野菜、特に歯ごたえのある瓜や蓮根や牛蒡や人参などを刻みさっと茹でて、赤唐辛子や香味野菜の紫蘇や茗荷や生姜を入れて三杯酢で合えた物。木耳が入ると色も締まり歯触りもよく、栄養的にもアップします。胡瓜や茄子など軽く塩もみして入れる事もあります。
ポルトガル語【achar】漬物という意味。
お盆のお供えやお盆の精進料理に作られ、冷蔵庫の無いときのお客様料理だったそうです。
④かぼちゃの団子汁
豊前市には三毛門南瓜の産地です。450年前ポルトガルから伝わったそうです。この地位の代表的な郷土料理煮干し汁でだしをとり、南瓜や椎茸の銀杏切りを入れて小麦粉団子を入れて煮込みます。夏の暑い日、汗をかきながらフ-フ-言って食べていたそうです。
環境に考慮した食育プログラムを作成するために、調理操作における嗜好性とCO2排出量に関する実験をしました。煮干しだし汁の調理では、15分加熱と120分浸漬後10分加熱において、イノシン酸、グアニル酸の数値に差は認められませんでした。煮干しの頭と内臓を取り除き、背骨に沿って裂き表面積を広げて120分浸漬することで、加熱時間を短縮できCO2排出量削減に寄与できました。先人が残してくれた家庭料理の知恵に感動です。
簡単、ヘルシ-、美味しい初夏の郷土料理をお楽しみください
資料:母の萩原郁子は91歳。85歳の時に整理した、上毛町の1年間の行事と食べ物、米作りの1年の計画
2020年1月15日に中国武漢市から帰国した男性が日本で初めて新型コロナウイルス感染症と確定診断されてから1年半が過ぎようとしています。昨年から今年にかけての流行状況をみると、4月、8月、12月から1月にかけて流行の山がきています。現在、流行は減少傾向にありますが、8月が近づくにつれ、昨年同様再び流行がくることが予想されます。そこで、新型コロナウイルス感染症の特徴とその予防法について、紹介したいと思います。
1)無症状者からの感染
新型コロナウイルス感染症の特徴の1つは、無症状者から感染することがあるということです。この症状のない人からの感染は全体の感染の何割合になるのかを検討したデータが報告されています。それによりますと、無症状の人からの感染は全感染の50%以上を占めると推定されています。 このことは、新型コロナウイルス感染症の症状がある人を特定して隔離するだけでは、流行の拡大は抑制できないことを示唆しています。そのため、多くの人にPCR検査を受けてもらい早めに陽性者をみつけて隔離するなどの対策が必要だと思われます。日本では自粛して人流を減らしなんとか対処していますが、2年目に入るとなかなか人流は減少しないようです。そこで、最後の切り札がワクチンです。
2)新型コロナウイルス感染症のワクチン効果
現在日本では、ファイザーとモデルナのワクチンが接種されています。そして、温度管理が比較的簡単なアストロゼネカのワクチンがこれから使用される計画のようです。メッセンジャーRNAワクチンを接種することでコロナ感染がどれくらい予防できるのか、米国で18歳以上の3万人を対象に検討されたデータが報告されています。それによりますと、1,000人の人がワクチンを接種すると、1年間に約6人がコロナに感染することがわかりました。一方、ワクチンを接種しない1,000人の人では、1年間に約80人がコロナに感染し、ワクチン接種者に比べ感染症の発症率は約14倍となりました。これらの結果から、ワクチンの有効率は94%と高い結果でした。また重症のコロナ感染症になった人は全員ワクチンを接種していない人でした。ワクチン接種はコロナに感染しても重症化を防ぐ効果もあるようです。ワクチン接種による副反応としては、発熱、頭痛、倦怠感、痛みなどがありましたが、治療が必要な副反応を起こした人は0.5%(1,000人に5人)でした。
3)やはりマスク着用は重要
以上から感染拡大を効果的に抑制するには、症状のない感染者からの感染リスクを低減する必要がありますが、日本ではワクチンの接種ができるまでまだ時間がかかりそうなので、それまではマスクの着用、手指の衛生、社会的距離の取り方が大切です。
参考文献
・Efficacy and safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 vaccine. NEJM (December 30, 2020).
・SARS CoV2 transmission from people without COVID-19 symptoms. JAMA (January 7, 2021)
・https://covid19japan.com/#all-prefectures
睡眠前のスマホなどのバックライト付きスクリーンを長時間みると、日内リズムに影響を与え、睡眠の健康に悪いといわれています。コロナの流行で自粛ムードとなり、家にいる時間が長くなると、ついついスマホやタブレットをみる時間が増えそうです。そこで、電子機器のスクリーンを見る時間と睡眠障害との関係を調査したイタリアからの報告です。対象者は 2,123名のイタリア人(平均年33.1歳)で、ステイホームを初めてから3週目に睡眠の質と不眠症状を聞き、7週目に入眠前の2時間におけるスクリーンをみる時間の変化を尋ねました。その結果、3週目から7週目にかけて電子機器をみる時間が増加した人は、睡眠の質の低下、不眠症状の悪化、睡眠時間の短縮、入眠までの時間の延長、就寝時刻と起床時刻の遅延を示しました。逆に、夜間スクリーンをみる時間が減少したと回答した人は、睡眠の質の改善と不眠症状の減少が認められました。これらの人はステイホーム中は一貫して早い時間に就寝していました。夜はスマホをみる時間を減らし早く就寝することが、睡眠の質を高める秘訣のようです。
Sleep, zsab080, https://doi.org/10.1093/sleep/zsab080
動物実験では炭水化物を多く食べタンパク質の摂取量を減らすと、寿命が延び、中年期の代謝状態が改善されます。そこで、いろいろな種類の炭水化物と低タンパク質の食餌を設定して、動物に食べてもらい代謝を検討したオーストラリアからの報告です。33種類のたんぱく質と炭水化物の組み合せの食餌をマウスに食べてもらいました。その結果、低タンパク質で高炭水化物の食餌では、炭水化物に食物繊維が多いと最も健康的な代謝を促進しますが、精製された炭水化物では健康的な代謝はみとめれませんでした。食物繊維が多い炭水化物として、玄米、オート麦、キノアなどの全粒穀物、レンズ豆、豆、ひよこ豆などのマメ科植物、そしてサツマイモなどがあります。昔の日本人は炭水化物の多い食事でしたが、食物繊維の豊富な炭水化物を食べていましたので1日の食物繊維の摂取量は30gにもなっていました。しかし、現在では精製された米やパンを食べ、芋の消費が減り、1日の食物繊維摂取量は半分の15gまで低下しています。日本は米文化の国で米から食物繊維をたくさん取っていました。時代は変わっても食繊維の多い炭水化物の摂取を心がけることが大切です。
Obesity (2019) 27, 1225-1238. doi:10.1002/oby.22531
肥満や脂肪の多い食生活は、乳がんのリスクをあげます。肥満や高脂肪食の乳がんへの影響は、腸内細菌叢が関与しているのではないかと考えて研究した米国からの報告です。動物実験と人を対象にした研究を行いました。まず、乳がんにかかりやすいマウスに高脂肪または低脂肪の飼料を与えたところ、高脂肪食を摂取したマウスは、低脂肪食を摂取したマウスよりも乳がんの発生が早く、がんも大きくなりました。次に低脂肪食を摂取するマウスに高脂肪食を摂取するマウスの腸内細菌叢を移植しました。すると高脂肪食を摂取したマウスと同じ数の乳がんが発生しました。つまり、腸内細菌叢が乳がんの発生に関係しているこが示唆されました。次に、乳がん患者13名を対象に2群に分け、手術前に1群は魚油のカプセルを、他の1群は形が同じで魚油が入っていないカプセルを摂取してもらいました。その結果、魚油を摂取した群では乳房の微生物叢が変化し乳酸菌が増加しました。動物実験では乳酸菌は乳がん腫瘍細胞の増殖を抑える作用があることが分かっています。2020年度の日本の女性のがんの発生数は、乳がんが第1位、第2位が大腸がん、第3位が肺がんとなっています。乳がんを予防するためには、腸内環境をよくすることが重要であることが示唆され、食物繊維をたくさん取ることが大切ではないかと思われます。
Cancer Research DOI: 10.1158/0008-5472.CAN-20-2983