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2021年4月 春の薬膳・熊本県の郷土料理

目からウロコの調理学

日本の伝統的な和食―各地方の郷土食・熊本県―

【1】日本の伝統的な和食は日本型薬膳

平成25年12月、ユネスコ無形文化遺産に「和食、日本の伝統的な食文化」が登録されました。日本人が日本の食文化を健康モデル食であると見つめ直すとともに、次世代に向けて保護・継承が求められています。
中医学を基本にした薬膳は、個々人に対応した食事、まさに地域の旬の食材を使用して栄養的にも優れたものなのです。
和食は「自然尊重」という日本人の精神を体現した食であり、4つの特徴を掲げています。
1)日本には四季の移り変わりがあり、折々の新鮮で多様な食材があり、その旬の食材を引き立たせるために、旨味成分を含む出し汁を使用した調理技術が発達しています。
2)和食は一汁三菜を基本にした献立がベースであり、一食で栄養のバランスがとれており、まさに健康的な食生活を形成しています。主食の米や小麦粉に、四季の新鮮な海の幸・山の幸である魚介類や野菜類や果物類を使って、油脂類の少ない調理品ができるのです。
3)和食は季節感も考慮されており、料理に花や葉類など自然の素材を添えたり、飾り包丁で美意識を高め、器も季節に合った物を使用しています。
4)日本では、1月の正月から12月の大晦日の年中行事、また人の誕生から人生の節目の儀礼においても、食は不可欠です。一汁三菜の献立がベースにあり、地域の旬の食材を美しく美味しく健康に調理し、今日まで継承し持続して食べてきました。

【2】日本食と2015年ミラノ国際博覧会

現在、海外における日本食や食文化のブームは高まり、2015年にイタリアのミラノ市で「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに『ミラノEXPO』が開催され、ジャパンブランドの日本食の魅力が国際社会に発信されました。
私達も、イタリア・アルバーノの修道院へ、最後の日本人シスターであるファティマ竹内街子おばを訪問していましたので、博覧会に行って参りました。日本館が「展示デザイン」部門で金賞を受賞し、日本の人気が高まり、それまで「Cinese」中国人と言われてきた私も、「Giapponese」日本人と声をかけていただくようになり、このEXPOは日本をPRするのに凄い効果であったと思います。
食に関するユネスコの無形文化遺産に登録されるためには、社会的機能・文化的機能・教育的機能が重要だと言われています。
①フランスの美食術 ②地中海料理 ③メキシコの伝統料理 ④トルコのケシケキの伝統 ⑤日本の和食 ⑥韓国のキムジャン(キムチの製造と配分) ⑦トルコのトルココーヒーの文化と伝統 ⑧グルジアのクヴェヴリ などがあります。

【3】熊本県の郷土料理

2016年の地震により被害を受けた熊本城は、2021年春には天守閣の完全復旧を目指して進んでいます。 熊本県は日本第2位の阿蘇カルデラを持ち、「火の国」と呼ばれていますが、名水100選に白川水源を始め4カ所が選ばれており「水の国」でもあるのです。水前寺公園の近くにある茶道肥後古流の先生宅へ、学生だった堀尾さんと週に一回、一年間通い、食文化についても多く学ばせていただき、卒論で茶道肥後古流についてまとめる事もできました。
今回は、熊本の郷土料理について紹介いたします。

1)辛子蓮根

加藤清正氏が蓮根を熊本城外堀に非常食として栽培していたという説があり、また初代熊本藩主が病弱だったので考案されたとも言われています。蓮根の輪切りの断面は細川家の家紋に似ているというので、門外不出の料理となりました。辛子蓮根の味と香りと辛味のバランスは抜群です。中身に辛子明太子を入れても美味です。揚げたてを是非お召し上がりください。熊本の郷土料理店「青柳」のおかみは、「シャキシャキとしてツーンとした辛子蓮根は熊本県の魅力の一品」だと教えてくださいました。

2)一文字のグルグル

ワケギである葱を茹でてグルグル巻き、酢味噌をつけて食べる安価な美味しい料理です。宮中の女房言葉で「ヒトモジグサ」と呼ばれる「葱」を使っているので名付けられたと言われています。

3)高菜炒めの飯

阿蘇の火山灰の土壌で育った高菜は、厳しい冬を過ごす常備食です。高菜は胡麻油で炒めて、胡麻をタップリ入れて、砂糖やお酒を入れて好みの一品に。「熊本では飯は炒めないで白飯に高菜炒めを混ぜて、シャキシャキとしたテクスチャーと高菜の辛味が食欲をアップさせる」と熊本日日新聞編集長の松下博司氏(親戚)は依然語ってくれました。

4)いきなり団子

突然=いきなり客人が来られ、生のサツマイモとアンを包んで団子として蒸しておもてなしをしたという、熊本の伝統的な団子。

5)太平燕(タイピンイェン)

熊本のソウルフードと呼ばれ、中国の福建省の福州市の料理が明治時代より日本でアレンジされ、今日に至っている料理です。春雨に旬の野菜をタップリ入れて海の幸の魚介に豚肉と揚げ卵を入れたヘルシーな一品。発祥店の一つ「紅蘭亭」で義母と一緒に食べた味はチャンポンの味とよく似ていました。

一陽来復の健康学:新型コロナウイルス感染予防に向けて

 一陽来復とは、冬が去って春が来る、転じてよくない事の続いた後にいい事がめぐって来ることを意味します。昨年から新型コロナウイルス感染の世界的大流行で、私たちのくらしが一変しました。残念ながらまだ収束には至っていませんが、ワクチンの接種も始まり、昨年とは異なる対応が少しずつ進み、個人、家庭、社会の一刻も早い快復を願うばかりです。現在、新型コロナウイルス感染の流行は、予想通り感染力の強い変異株が流行し、第4波に備える時期となりました。英国の研究によりますと、変異株のウイルスに感染した患者はこれまでのウイルスに感染した患者に比べ、死亡率が1.6倍高く、また発病して2週間後から急激に死亡率が上がることが報告されています。現在日本では変異株のウイルスに感染した人が増加していますので、緊急事態宣言が解除されても、油断せずにこれまでの予防対策を継続することが重要です。
 ワクチン接種については、米国でファイザー/ビオンテック社のワクチンと、モデルナ社のワクチンの接種が継続中です。日本では3月23日時点で約70万人が1回目の接種を受けています。一方米国では1月13日までに約1, 380万回の接種が行われ、有害事象について報告がされています。それによると、接種後に頭痛が約23%、疲労感、めまいが約17%発生しています。重篤な有害事象であるアナフィラキシー(複数の臓器や全身にアレルギー症状が表れ、過敏な反応が出る状態)の報告は100万回接種で4.5件発生しています。日本ではアナフィラキシーの疑いの人は3月12日の時点での報告で100万回接種で約43件の発生となっており、米国より10倍多い数になっています。この理由の1つはアナフィラキシーの定義が異なるためだと思われますが、重篤な有害事象が発生してもすぐに対応できる医療体制が整備されています。米国ではこれらのワクチンの安全性は問題ないという結論になっています。高齢者へのワクチン接種が日本でも始まりましたが、国民の多くが接種するまでにはかなりの時間がかかりそうです。それまでは、油断せず、三密を避け、マスクをして、手洗いを欠かさず予防に努める以外ないと思われます。

健康一口メモ

  • 植物中心の食事にも欠点があります

     これまで植物中心の食事は、生活習慣病などのリスクを低減する健康的な食事と考えられてきましたが、カルシウムとビタミンDの摂取量が少なくなり、骨の健康にリスクが生じる可能性があるというフィンランドからの報告です。研究対象者は女性107名、男性29名で、無作為に3つのグループに分けて、次の食事のいずれかを12週間食べてもらいました。全タンパク質摂取量の中で、①70%が動物性タンパク質、30%が植物性タンパク質、②50%が動物性、50%が植物性、③30%が動物性、70%が植物性の食事の3つです。主な動物性タンパク質としては肉や魚やなどで、主な植物性タンパク質は大豆製品、穀類などです。これらの食事を摂取した12週間後、③の食事を摂った群が他の群に比べ骨にダメージが生じる結果となりました。これは、植物性タンパク質を多く含む食事では、ビタミンDとカルシウムの摂取量が少ないことが原因と考えられました。この結果、植物中心の食事をする場合は、ビタミンDやカルシウムの摂取量が少なくならないように、キノコ類や大豆製品、海藻類などを積極的に摂取したり、乳製品や魚介類などを摂ることが重要です。

    The Journal of Nutrition, Volume 151, Issue 1, January 2021, Pages 11–19,

  • 長期的な健康を維持するための果物と野菜の最適な摂取量は?

     果物や野菜は健康維持・増進に重要な食品ですが、そのためにはどのくらい食べるといいのか、これまで明確な量は不明だったので、それを明らかにした米国の研究です。研究対象者は約10万人で、2、3年ごとに食事調査を行い、健康状態を追跡しました。その結果、毎日約5皿の果物と野菜を摂取する人の死亡リスクが最も低くなりました。またそれ以上食べても死亡リスクをより下げる効果はみられませんでした。実際の死亡リスクの減少の程度は、1日2皿の果物と野菜を食べる人と比較して、1日5皿の果物と野菜を食べる人は、総死亡率が13%減少し、脳血管疾患死亡率は12%減少、がん死亡率は10%減少、呼吸器系死亡率は35%減少しました。果物や野菜については、ほうれん草、レタス、ケールなどの緑の葉物野菜や、柑橘系の果物、ベリー、ニンジンなど、ベータカロチンとビタミンCが豊富な果物や野菜が死亡率を下げる働きがあると考えられました。ただし、果汁製品は関連が見られませんでしたので、やはり、フレッシュな果物や野菜がいいと思われます。

    Circulation. 2021;143:00–00. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.048996

  • 中高年で小太りになった人が一番長生き

     人は一生の間に体重がいろいろ変化しますが、生涯にわたる体重の変化が長寿にどのような影響があるのかを検討した米国からの報告です。対象者は成人4,576名とその子供3,753名です。これらの対象者の31歳から80歳までの肥満指数BMI(体重を身長で割り、もう一度身長で割った値)の変化を調べ、死亡率との関連を検討しました。肥満指数は、低体重(BMI22未満)、普通体重(22-25未満)、過体重(25-30未満)、肥満(30以上)に分類しました。その結果、31歳の時点では標準体重であり、成人期中盤以降に徐々に過体重状態に移行したが肥満にはならなかった人が最も死亡リスクが低い結果でした。次いで成人期を通して標準体重を維持した人、成人期を通して過体重を維持した人、成人期を通して低水準の標準体重を維持した人、成人期中盤以降過体重になったが下降した人、成人期中盤以降軽度肥満になった人、成人期中盤以降中度や高度の肥満になった人の順で死亡リスクは高くなりました。歳を取るとともに少し太り気味になる人が標準体重をずっと維持している人よりどうも一番長生きするようです。この結果は、これまでにも指摘されており、歳とともに肥満になるのを避け、過体重で止めておくことが肝心です。

    Annals of EpidemiologyVolume 56, April 2021, Pages 18-25