〔春のプラントベースの日本型薬膳〕
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年9月の国連サミットで採用され、2030年までの国際目標です。
「『誰一人取り残さない』持続可能で多様性と包摂性のある社会に向けて」と、17の目標が掲げられているのです。具体的には169のターゲットから構成されています。
一方、2006年に国連食糧農業機関(FAO)が正式に定義した、低栄養と過栄養の「栄養不良の二重負荷」は、発展途上国と先進国の双方において深刻な問題となっているのです。
中村学園大学 三成研究室では、環境と健康を考慮した持続可能な食事を提供するために、健康モデル食日本型薬膳の食材で、たんぱく質に寄与する食材としてプラントベース(Plant-based food)を用いて、新しい食の在り方について開発しています。
今回、春の旬の食材を用いてプラントベースの日本型薬膳を紹介いたします。
SDGsの17目標のうち栄養に深く関わる目標は2つで、「飢餓をゼロに」と「すべての人に健康と福祉を」であり、日本においても厚生労働省の「日本の栄養政策」に取り入れられています。また、世界の栄養に関する専門家によって、「環境に寄与した健康的な食事をすることは、人間の健康の利益をもたらす」と報告されています。
昨年、本学のフードマネージメント学科の講義に、日本KFCホールディング(株)社長 近藤正樹氏を招聘いたしました。その講義の中で、2019年には、アメリカにおいて植物由来のフライドチキンを試作して販売したところ長蛇の列ができて人気だったとの事でした。
プラントベース(Plant Based)とは、植物由来の原料からなる食材や食品を使用して調理しますが、これまでの「ヴィーガン」や「ベジタリアン」などの個人の宗教や信念や健康のみの理由だけでなく、まさにSDGs
(Sustainable Development Goals)持続可能な社会を大事にしたいと肉を控える傾向のある人など、ファンも多いとの事です。
コロナ禍の今、食の本質を見直す人が増えているのではないかと思われます。
日本の伝統食は穀類に大豆や野菜類を中心に、少しの魚介類が調理されて食卓に登場していました。
山で採れた山菜は、アクがあれば灰を入れて茹でて水にさらす。また収穫できた沢山の野菜類は保存方法にこだわり、天日干しにしたり、塩漬けにしていました。各地で工夫されて郷土の料理が生まれ、家庭料理となっていったのです。
日本の精進料理は、禅宗の「曹洞宗」永平寺開祖 道元禅師が中国から持ち帰り、寺院の食法として取り入れられています。避ける食材は、動物性のもの、匂いの強い食材の五草(ネギ・ニラ・ニンニク)などです。しかし大豆は菜食で不足したタンパク質を豊富に含むため、積極的に取り入れられています。
長期保存できるように、また食べる人を飽きさせないようにと、大豆は加工されて、味噌・醤油・豆豉・豆乳・湯葉・豆腐・油揚げ・納豆などが作られて使われてきました。
昔、永平寺の宿坊に宿泊して坐禅と精進料理の体験をさせていただきました。
禅家の食事で、朝食は粥座、昼食は斎座、夕食は葉石で、私は朝の粥座をいただき、粥とたくあんの味は今でも覚えています。典座寮(台所)で食材を無駄にしてはならないと学び、「典座教訓」には食事を作る人の心構え、「赴粥飯法」には食べる人の心構えが書かれています。永平寺の修行僧の方々の荘厳な読経や祈りの姿は今でも忘れることはできません。
今回、プラントベースでの料理を紹介しましたが、植物性油脂のジャンルを幅広く展開している不二製油(株)の食品を使いました。世界初の食品加工技術で、特許を取得している豆乳発酵食品の「大豆無珠(まめまーじゅ)」や大豆バターを使用すると、大豆の臭いはなく、風味も味もバランスよく美味でした。
実は、2015年のミラノ国際博覧会で、日本が誇る食品加工技術として紹介されていたのが、なんとこれらの商品だったんです。
私が大学の助手の時、約40年前になりますが、九州大学卒の友人が大豆ミートの研究をされていて、美味しく食べる方法について、研究依頼されました。プラントベースの新しい食文化への貢献に繋がっていたんですね。皆様もぜひ挑戦してみて下さい。
日本でこれから接種されるワクチンは次の企業等が開発した3種類のワクチンです。
①ファイザーとビオンテック、②モデルナ、③アストラゼネカと英オックスフォード大学。
ワクチンは、細菌やウイルスなどの病原体に対して攻撃能力をもち、病気の発症を抑える働きがあります。これらのワクチンが新型コロナウイルス感染を防ぐ効果がどの程度あるかを検討するため、健康な人を対象にワクチンを接種した群とワクチンを接種しない(生理食塩水を注射)群に分けそれぞれの群の新型コロナウイルス感染の発症率を比較する臨床試験が行われました。その結果、①のワクチンは95%発症を抑制、②のワクチンは94.1%抑制、③のワクチンは70.4%抑制する効果がみられました。季節性インフルエンザのワクチンの有効性がだいたい50~60%なので今回のワクチンの有効性はかなり高いと考えられています。またイスラエルでは国民にワクチン接種を実施し、①のワクチンについて2回の接種による発症予防効果が95.8%に上ったと発表され、臨床試験と同様の有効性があることがわかりました。
集団の中で個人がワクチンを接種して、その数がある一定の数まで達するとその集団では感染広がらないようになります。これを集団免疫といいます。集団全員がワクチンを接種しなくても、ある割合の人がワクチンを接種すれば感染拡大は防げます。新型コロナウイルス感染では人口の50%の人、つまり2人に1人がワクチン接種すると感染は防げると考えられています。
接種後の副反応については、注射の部位の痛みが最も多く約80%の人にみられています。次に倦怠感や頭痛が約60%でています。だたし、数日内には症状のほとんどは消失するようです。一番怖い副反応としてアナフィラキシーがあります。これはワクチン接種後に全身の発疹、皮膚のかゆみ、口やくちびるの腫れ、目の腫れ、喘息症状、呼吸困難などが出現し、ひどくなると血圧低下や意識障害などに至るものです。日本では2月17日から医療従事者を対象にワクチン接種が開始されました。2月19日時点で5,039人の医療従事者にワクチン接種がおこなわれましたが、このうち1名にじんましん、また1名が寒さを感じ震えがでる症状がみられたということです。いずれも重篤にいたらず回復されています。これまでの海外のワクチン接種のデータからアナフィラキシーが起こる確率は100万人に2~5人といわれていますので、1万人程度のワクチン接種ではまだ日本人ではアナフィラキシーがどの程度起こるのかはわからないところです。しかし、重篤な副反応が起こってもすぐに対応がとれる医療体制が整備されているようなので心配はいらないと思います。ワクチン接種を希望される方でアレルギーなどがある方や基礎疾患がある方はまず医師に相談することが大切です。
日本におけるがんの死亡者数の上位3つは、男性は肺がん、胃がん、大腸がん、女性は大腸がん、肺がん、膵臓がんの順となっています。男女合計すると肺がん、大腸がん、胃がんの順位で、大腸がんは日本人のがん死亡者数の第2位を占め、予防対策が重要ながんの1つとなっています。今回、食品、食品群、飲料(アルコールを含む)、栄養素と大腸がんの発生率との関連を検討した追跡研究データを用いて、大腸がんとその予防因子、危険因子を評価したアメリカからの報告です。結果は、食物繊維、カルシウム、ヨーグルトの摂取量が多い人は大腸がんのリスクが低いことがわかりました。一方、アルコールや赤肉の摂取量が多いと大腸がんのリスクが高いことが判明しました。ヨーグルト以外の他の乳製品、全粒穀物、加工肉については、結論が得られず、さらなる研究を行い明らかにしていくことが重要であると考えられました。大腸がんは女性のがん死亡の第1位となっており、食物繊維やヨーグルトを摂取して腸内環境を健全に保つことが重要です。
JAMA Network Open. 2021;4(2):e2037341. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.37341
血清コレステロール値を下げる薬は、悪玉コレステロールであるLDLコレステロール値を低下させることで心臓病の予防効果を発揮します。健康的な生活習慣はLDLを減少させるとともに、善玉コレステロールであるHDLコレステロールを増加させて心臓病を予防することがわかっています。しかし、コレステロール降下薬と健康的な生活習慣を同時に行う場合、血清脂質にどのような影響があって心臓病を予防するのかは検討されていませんでした。そこで、中国のバイオバンクに登録されている脳血管疾患患者、心臓病患者、健常者を含む4,681人の参加者の血液を調べ検討したアメリカからの報告です。これらの対象者を10年間追跡して、心臓病になった927名と、健常な1,513名の血液を比較しました。その結果、血清コレステロール降下薬はLDLコレステロールを低下させる効果がありますが、心臓病のリスクを上昇させるVLDLコレステロールを下げる効果はあまりありませんでした。一方健康的な生活習慣の方がVLDLコレステロールを下げる効果が強いことがわかりました。つまり、血清コレステロール値が高い人が心臓病を予防するためには、血清コレステロール降下薬を服用し、かつ健康的な生活習慣(定期的な運動、健康的な食事、適正飲酒、標準体重の維持)を行うことで、心臓病予防効果が最大となります。血清コレステロール値が高い人は食事に気をつけてもなかなか血清コレステロール値は低下しません。降下薬は確実に血清コレステロール値を低下させますので、薬の服用と健康的な生活習慣を無理なく行うことで有効な心臓病予防ができると思われます。
eLife 2021;10:e60999 DOI: 10.7554/eLife.60999
マスクは飛沫感染をする感染症において飛沫を抑える働きがあり、それによって感染の拡大を防ぐ効果があります。今回、マスクにはこのような効果だけでなく、新たな素晴らしい効果を明らかにした米国からの報告です。湿度が低い環境では風邪をひきやすいとよく言われますが、これは気道粘膜内の湿度が低下することが原因です。そこで、この研究ではマスク着用と気道内の湿度の関係を実験で調べました。使用したマスクは4タイプのマスク(N95マスク、3層サージカルマスク、綿とポリエステルの2層マスク、厚手の綿マスク)です。研究に参加した人にそれぞれのマスクを着用してもらい、密閉された金属製の箱に息を吹きこんでもらい、箱内の湿度を測定しました。マスクを着用していない場合には、箱内の湿度が急速に上昇しましたが、マスク着用時には箱内の湿度は大幅に低下しました。この理由は、マスク非着用の場合には、呼気に含まれる水蒸気がほとんど口腔内からでてしまい、マスク着用時には逆にほとんどの水蒸気はマスク内にとどまったためです。水蒸気がマスク内にとどまることで気道内の湿度は高く保つことができます。気道内の湿度が高いと、粘液の防御機構を促進し、肺へのウイルス拡散を抑えたり、ウイルスと戦う特別なたんぱく質を生成することで免疫システムを強化すると考えられています。そのためマスク着用は重症化も予防する効果が期待されています。すべてのマスクで高い水蒸気保持能力がありましたが、最も能力が高かったのは厚手の布マスクでした。マスク着用は簡便でかつ強力な新型コロナウイルス感染症予防対策といえます。
Biophysical Journal 120, 1–7, March 16, 2021