2021年 お正月の薬膳料理
新年おめでとうございます。
皆様健やかに、新春をお迎えのことかと存じます。今年もよろしくお願い申し上げます。
今回は、お正月料理について、また、塩分を含む“味噌・醤油”の調理性について紹介します。
お正月は、一年の始まりであり、心も新たまりますようにと、家の隅々を清掃されて、お飾りとしめ飾りを付けられていることでしょう。
特に鏡餅は、三種の神器の神鏡の型のように丸く作り重ねて、代々年を重ねていけるようにと願って飾られました。
そして正月の床飾りは、山海の産物三方に盛り合わせますが、この食材を料理したものが「正月料理」なのです。
それから、「ゆずり菜」「うら白」の植物の葉を、お正月に使用しますが、葉が交互についているため、「親から子供へ代々ゆずる謙虚の意」を表しているのです。
鏡餅の上に飾る「橙」は、木からもぎ取らなければ黄色の橙の実が再び青緑色となり、「代々繫栄する」ということで使われます。
料理に使う食材は、多幸を願う心から、縁起を担いだものが使用されます。
「昆布」:喜ぶ・養老昆布にかけて使う。
「勝栗」:勝つ事を繰り返す。保存食でもあるので使う。
「鱈」:多良と書き、良いことが多くあることを願う。
「鰊(ニシン)」:親も子供も二代そろって、健在であることを願う。
「熨斗鮑」:不老長寿の食材として、武士の出陣・帰陣の祝い膳に用いられていた。
「鯛」:目出鯛。人の上に立つような人になれるように願う。
「海老」:腰が曲がる年になっても長寿でいたいと願う。
「ごまめ」:田作りとも言われ、田畑の肥料にもしていたので五穀豊穣を願い、小イワシの尾頭付きはこまめで達者であることの縁起を担いだ。
「数の子」:鰊の卵の塩漬けを水で戻して味をつけて食べるが、一腹に卵をたくさん持つため、子孫繁栄を願った。
「黒豆」:田夫とも言い、田を作る人達が健康に太陽の下で働き、黒くなった顔を表している。黒豆はタンパク源としても重要な食材。
「牛蒡」:生命力が強い食材で、開きごぼう、たたきごぼうの料理がある。
雑煮は晴れのお祝いの食事であり、餅や野菜を煮た料理で、誰でも祝える雑な煮物なのです。神様の供物は神饌と言い、下げて神と共に食事をします。 博多の五目雑煮は、焼きあご(焼いた飛び魚)・昆布・カツオ節で出汁を取り、餅は1個50~60gの丸型、具はカツオ菜(緑)・梅人参(赤)・椎茸(黒)・里芋(白)・大根(白)・かまぼこ・柚子(黄)、それに塩をした鰤は不可欠です。鰤は成長によって名称が変化するので、出世魚と言います。日本海から太平洋まで生息する鰤は、ワカシ→イナダ→ハマチ、そしてブリになるのです。
お屠蘇は、中国において、一年の邪気を払い、延命長寿を願っての薬酒そのものでした。
日本では平安時代にかけて、宮中の儀式で飲用され、その後江戸時代頃に民間に広まって現在に至っています。
「お屠蘇」は、かつて熊本大学薬学部の矢原正治先生が「屠蘇散作りの会」をされていて、私も薬膳で出会って参加させていただきました。
中医学の薬膳食材で使用する①桂皮(シナモン) ②花椒 ③陳皮 ④桔梗 ⑤浜防風 ⑥蒼求 ⑦丁字(クローブ)を粉にして袋に入れて仕上げます。それらの食材は、体を温める、また健胃作用もあり、冬の薬膳そのものの食材でした。
幼少の頃を現在の上毛町で過ごしましたが、祖母が大晦日にお屠蘇袋を井戸の上につるして清め、元旦の朝、朱塗の屠蘇器に酒(赤酒)を入れて、お屠蘇袋を入れて、正月飾りの横に置いていました。
朝起きて若水(その年の初めての井戸水)で手を洗って清め、神棚や仏壇を拝み、家族そろって新年のあいさつをしていました。
まず、朝一番に汲んだ水のお茶である若茶をいただき、次にお屠蘇は盃が三段重になっているので、年少者から年長者へと杯を進め回して、お屠蘇肴として、のし梅・結び昆布・するめと一緒にいただきました。その後、お雑煮の餅は年の数程、そして節句料理をいただいたものです。
お正月料理に色・香り・うま味・つや・塩味をつける醤油。原料は大豆・小麦粉・塩を入れた発酵調味料。発酵中にグルタミン酸や他のアミノ酸・香気成分が生成されて、旨味・酸味・甘味・塩味などの複雑な味ができあがるのです。お正月には醤油は不可欠な調味料です。
塩分は食塩の約5倍量の醤油を使用する。一般的には、塩分が14.5%の濃口醤油、16%の薄口醤油、減塩醤油は7.3%です。
淡白な味や香りを持つ野菜類や吸い物には薄口醤油、濃厚な味や臭みを持つ食材には濃口醤油が適しています。
時に醤油は特有の醸造香があり、みりん・砂糖などを加熱するとアミノカルボニル反応を起こして、メラノイジンを生成し、色と香りを発生します。照り焼きが美味しいのは、そのメカニズムのおかげです。
そして、醤油は魚や獣鶏肉の臭みをマスキングするだけでなく、pHが4.6~4.8の酸性なので、腐敗防止・滅菌効果にもなります。しかし、緑黄色野菜を加えて加熱すると、緑色があせてくるので注意が必要です。クロロフィルの色素のマグネシウムがはずれて、褐色のフェオフィチンになるからです。
味噌の原料は大豆・麹・塩である。原料・食塩濃度・色調で分類されます。米味噌は食塩5~7%、辛味噌は食塩12~14%、麦味噌は食塩12%、豆味噌・八丁味噌は食塩11%前後です。
味噌の食塩の強さは食塩の約10倍量で調味します。味噌汁の味噌は、よく「すりつぶす」ことにより、粒度が細かいコロイド溶液となり分散が増加して、口当たりが最高となります。
味噌は緩衝能があり、酸やアルカリの食材を添加してもpHが変動しません。味噌汁の具は色々な食材を使用してもよいわけです。
味噌には魚や獣鳥肉の好ましくない臭気を消去し、酸味や灰汁の味和らげてくれます。コロイド粒子の作用により、タンパク質とその分解物、有機酸が関り深いのです。
体内では、活性酸素は廊下や疾病を促していますが、味噌には活性酸素消去作用があり、熟成し着色した味噌は特に効果が高いとされています。
新型コロナウイルス感染症の流行が冬になって徐々に広まっています。友人との楽しいおしゃべりもできず、仲間との会食も中止となるなど、これまでにないさまざまな制約を強いられ、ストレスがたまる一方です。ひとりで過ごす時間が増えたこともあると思いますが、このような状況にあるとき、人は何を考えて生きていくのでしょうか。ひとりで過ごす時間と他者と一緒に過ごす時間で、人はどんなことを考えるのかを検討したイスラエルの研究があります。人が他者といるときは、現在に焦点を合わせており、過去や未来には焦点を合わせないようです。そして、ひとりでいるときよりも心配や怒りは増えますが、悲しみは少なくなるようです。ではひとりでいるときはどうなのでしょうか。ひとりの時間は、過去の経験や将来のことについて考えたり、人間関係のストレスを緩和したり、自分で選んだ余暇活動を行う機会となります。つまり、ひとりでいることと他の人と一緒にいることは、別々の経験をすることになり、両方の経験がその人の成長に重要な役割を果たしているということになります。コロナ禍の状況は、決してすべて悪いわけではないと考えることが大事です。
もう1つ研究を紹介します。コロナ禍でストレスがたまると、人間関係でいろいろなもめ事が増える可能性がありますが、感情的に柔軟であることは、良好な人間関係を長続きさせるために最も重要な要素のひとつのようです。感情的に柔軟な姿勢をとることとは、①良いことにも悪いことにもオープンでそれらがどんなに困難であっても受け入れる、②日々の生活を通じて今この瞬間に心の底から気配りする、③自分の考えに固守しすぎない、④困難な考えや感情の中にあっても幅広い視野をもつ、⑤毎日のストレスがあっても大切な価値観を維持する、⑥困難な経験や挫折に直面しても、目標に向けて一歩を踏み出し続ける。言うは易く行うは難しですが、コロナ禍の現在、できれば心に柔軟性を持ちたいものです。
参考文献:
Social Psychology. https://doi.org/10.1027/1864-9335/a000430.
Journal of Contextual Behavioral Science Volume 18, October 2020, Pages 214-238
肥満やインスリン抵抗性(血糖を低下させる作用のあるインスリンの作用が効きにくい状態)があると、2型糖尿病などいろいろな健康問題を引き起こします。そこで、肥満者が植物中心の食事を摂取することで、体重や内臓脂肪が改善するかどうかを検討した米国からの報告です。対象者は25~75歳の肥満者で、これまでの食事から植物中心の食事に替える人122名(A群)、これまでの食事を続ける人122名です(B群)。16週間このような食事を続けてもらいました。植物中心の食事とは、野菜、穀物、豆類、果物などで構成され、動物性食品や脂肪は含まれていません(いわゆるベジタリアン食です)。A群とB群の食事のエネルギーの差は約300kcalです。植物中心の食事について三大栄養素のエネルギー割合をみると、炭水化物からのエネルギーが約75%、タンパク質15%、脂肪10%です。16週間後の体重の変化はA群では5.9kg減少、B群は変化ありませんでした。内臓脂肪もA群では大幅に減少していました。インスリン抵抗性もA群では減少しました。今回の植物中心の食事に魚や海藻などを加えると日本人が日頃食べている和食に近くなり、同様な効果が期待されます。
JAMA Network Open. 2020;3(11):e2025454. doi:10.1001/jamanetworkopen
砂糖はブドウ糖と果糖からなっていますが、この果糖の過剰摂取は、メタボリックシンドロームの発症と強く関連しており、循環器疾患の死亡率も増加させる可能性があります。そこで、果糖を摂取するときに水分もたくさん取ると、果糖の肥満を起こす作用が抑制されるかどうかを動物実験で検討した米国の研究です。果糖入り水をマウスに与えた結果、マウスは肥満になりました。しかし、水を補給すると肥満は抑制されました。これは果糖が脳を刺激してバソプレシンというホルモンの分泌を促し、このバソプレシンが脂肪の蓄積を促進することが原因だとわかりました。ところが、水を補給すると、この果糖のバソプレッシン分泌作用を抑えることが判明しました。果糖は果物や野菜、フルーツジュース、ハチミツや清涼飲料、お菓子などの加工食品に含まれています。今後人を対象にした研究でさらに水の肥満予防効果を検証する必要がありますが、甘いものを摂るときは、水をよく飲むと肥満を防止する可能性が期待されます。
10.1172/jci.insight.140848
先進国に住んでいる人々は、屋内や都市環境の中で多くの時間を費やし、自然との触れ合いが少ないといわれています。自然の中で時間を過ごすことは人の健康と幸福に利益をもたらすことが知られていますが、その理由はよくわかっていませんでした。そこで、登山をしている人に鳥のさえずりを聞いてもらい、その心理的効果を検討した米国からの報告です。研究の場所は米国コロラド州の2つの登山ルートです。いろいろな鳥の鳴き声を録音した音を流すスピーカーを設置して、登山者が設置した地点に来たときに、スピーカーから鳥の鳴き声を再生したり、止めたりして登山者に聞いてもらいました。この地点を登山者が通過したあとにインタビューして心理的状況を調査しました。その結果、鳥のさえずりを聞いた登山者は、聞かなかった登山者に比べ、幸福感が高いことがわかりました。さらにいろいろな鳥のさえずりを聞くことで自然環境の豊かさを感じている人に幸福感が高いことがわかりました。自然からほぼ完全に離れて生活することは、自然が人々に与えてくれているさまざまな心理的、身体的、社会的な健康上の利益を人は自ら捨てていることになります。人は長い間、自然に育まれて進化を続けてきました。自然環境を保護することは重要ですが、自然環境で聞こえる音を保護することも大変重要であることがこの研究でわかりました。
Proc. R. Soc. B287: 20201811.https://doi.org/10.1098/rspb.2020.1811