冬の薬膳 塩味を有効に活用した鍋物
冬本番に向かい、気温は低下し始め、換気が難しい季節となりましたね。
全国で確定されている新型コロナウィルス感染者は、2,000人を超えています。「第3波」だと言われていますが、私達は感染予防にむかい危機感を持って過ごさないといけません。
中医学の陰陽五行学説から冬の薬膳を考えると、五行の水は季節の冬です。“腎”と関りのある時期でもあります。腎を養うのは“鹹”、塩味のある食材です。塩味の欠乏や過剰を避け、適量摂取することが重要です。
12月は寒い季節で陰の気が盛んになり、身体を休ませて活動を控え栄養を貯蔵する時であり、上海では高齢の方々が、食品店や薬局で黒の腎に関りのある黒胡麻・クルミなどを購入されて、大きな器に入れて「春が来るまで毎日ひとスプーン食べる」と言っていたのを思い出します。それらの食材は軽くつぶして砂糖や蜂蜜を入れることもあるようでした。まさに健康増進に寄与する家庭の薬膳ですよね。
冬と言えば寒い!寒いと言えばあったか鍋物ですね。風邪予防のためにも、生姜やニンニク・山椒・もみじおろし(大根+赤唐辛子)・葱などの薬味をたっぷり添えた日本の鍋料理に挑戦して下さい。鍋はバブリング効果のある対流の激しい土鍋が最高ですよ。
今回はまず寄せ鍋を紹介します。食材はルール無しで出汁に海の幸・山の幸を入れていただき、最後にうどんやお餅を入れて食べると、この献立一品で一汁三菜になります。
また、博多と言えば「若鳥の水炊き」。ポイントは、鶏肉骨付きを25分煮ると、身と骨が離れやすく食べやすいと教わりました(40年前に新三浦の社長様に)。最初はスープに塩少々(1つまみ)入れて、ネギと味わいます。その次は好みで、鶏肉を食べ…あーそうそう!野菜は白菜ではなくキャベツです。スープが水っぽくならないためには、キャベツを!舌ざわり、歯ざわり最高です!!それから、ポン酢は各自こだわって下さいね。各家庭の味を。
給料前日はおでんを!!大根・ジャガイモを大きく切って下茹でして、出汁で煮込みます。材料は、油揚げに卵やお餅を入れる。またチクワや天ぷらも美味しく、最後に春菊を入れて食べると、「冬だ!美味しい!」と必ず感じますよ。辛子を添えて下さい。
何といっても、給料日当日はすき焼き?!鉄鍋・フライパンに油(牛脂)を入れて牛肉を入れて両面を焼き、砂糖・しょうゆを入れて、少々お酒も入れて甘辛く焼きます。後は好きな野菜を入れ、水切りした豆腐、焼豆腐にコンニャクを入れて、ホットな気分で召し上がって下さい。
この鍋物をホットに美味しく食べるには塩味は不可欠!です。塩味は古今東西、料理の基本調味料です。純粋な塩味を呈する物質は食塩(塩化ナトリウム)です。おいしさに大きく影響を与える味。それは塩味なのです。塩については調理性を知っておいて下さい。
美味しいと感じるのは、人間の体液と同程度の0.8%だと言われています。
汁物の場合、混合出汁では0.1%、煮干し出汁0.2%、風味調味料では0.3%の食塩分が出汁の中に溶け出していますので、加える塩の量は控えましょう。料理の塩味は0.6~1.2%程度です。
甘味+少量の塩を入れると甘味が引き立つ(対比効果)
酸味+塩を加えると、酸味が抑制される(抑制効果)
野菜に塩をかけると脱水して(少し置く)、柔らかくなり塩味が付きます。
魚に1%の塩をかけると脱水してトリミチルアミン、魚の生臭味も消えて塩味が付きます。
漬物・佃煮・魚の干物・塩蔵品は食塩(5~30%)に食材を漬けると、食品中の自由水が食塩に溶けて水分活性が下がり、有害な微生物の繁殖を抑えられて保存が可能となります。
しょうゆや味噌の糸状菌・酵母菌、パン生地の酵母菌、漬物の乳酸菌は塩分濃度を変える事で増殖が調整されて良い味になります。
リンゴは切ってそのままにしておくと褐変します。ポリフェノールオキシターゼの作用です。塩水にリンゴ入れると、酵素活性が塩により阻害されるのです。
小麦粉に含まれるグリアジン・グルテ二ンは、水を加えて練るとグルテンを形成します。この時塩を入れるとグリアジンの粘性を増し、グルテンの網目構造を緻密にします。パン・うどん・餃子の皮で重要な役割を果たしてくれるのです。少量の塩は食品を美味しくします。
振り塩:材料の1%を上から振り入れること
立て塩:魚・野菜を3%の塩水につけること
塩締め:魚に多めの塩をまぶし、脱水とともに肉質を固めること
化粧塩:魚を焼く時、表面の水分を取って塩をかけて焼くと塩の結晶ができる
塩抜き:塩蔵品の塩を1~2%の塩分に漬けて塩を抜く(呼び塩)
中村学園大学栄養科学部では新型コロナウイルス感染症予防・対策のため、各実習ごとに施設の消毒には2時間おきにエタノール、次亜塩素酸で消毒しています。食事設計と調理の実習では毎週、まずWEBで調理師範を動画で配信して、学生は予習、そして対面授業は各班は3名以下で3密を避けて実習と試食をして、管理栄養士の実践力を落とさないように養成しています。今週、学生にも鍋物料理を指導します。皆様も是非、地産地消の野菜をたっぷり入れてルール無しの鍋物料理を美味しく!!自分のために、家族のために作って下さい。健康第一ですね!!
2020年、日本の認知症の人数は630万人と推計されています。今後、この人数は増加し、2030年には830万人、2050年には1,000万人を超えると予想されています。認知機能を若く保つためには、次の5つの習慣が大事です。①運動、②禁煙、③適度な飲酒、④脳への刺激、⑤健康的な食事です。まず運動は1週間に150分以上、1日20分程度、歩いたり、庭仕事をしたり、ラジオ体操をしたりするなど身体を動かすことです。記憶を司る脳の中の海馬という部位は加齢とともに萎縮しますが、運動することでこの萎縮を抑制することが知られています。タバコは脳に十分な酸素が行き届きにくくなり、脳機能の低下につながりますので禁煙が大切です。飲酒は男性では1日2合まで、女性は1合までが理想的です。飲酒量が多いと、思考や判断、感情や理性のような高次の認知機能を司っている前頭前野の萎縮を起こしやすくなるといわれています。脳への刺激とは、好奇心を持ち、人とよく交わることです。たとえば新聞や本を読む、手紙を書く、将棋や碁、麻雀などのゲームをする、いろいろな地域活動に参加するなどです。趣味を持つことはいいことです。最後に健康的な食事ですが、マインド食といいます。この食事は年を取っても認知機能を保っている人が多い地中海沿岸の食事がベースになっています。実は地中海沿岸の食事は和食と近い関係にあります。その特徴としてよく食べる食品は野菜、果物、豆類、魚介類、鶏肉などでこれらは和食でもよく食べているものです。このほか、オリーブオイル、ワイン、ナッツなどがあり、和食ではあまり摂取することはありませんがナッツは心臓病予防にもいい食品ですのでこれからは食習慣に取り入れたいものです。また逆にあまり食べない食品としては、バターやマーガリン、甘いお菓子類、揚げ物などです。
脳の細胞は加齢とともに減少しますが、記憶を司る海馬は細胞を増やせることが近年の研究で明らかになりました。また細胞同士を繋ぐネットワークは年を取っても増加させることができます。認知機能を若く保つためにはこのネットワークを増やすことが大事です。5つの習慣は、海馬の細胞を増やし、脳細胞のネットワークを増やす働きが期待されています。5つの習慣がある人は、ない人に比べ、認知症の発症率が半分以下ということが報告されています。筋肉は刺激しないとやせ細るように、脳もいろいろな刺激を受けることが大切です。
新型コロナウイルス感染症の流行で、現在全世界で5,000万人以上の人が感染し、130万人の人が亡くなりました。亡くなる危険性は年齢とともに高くなっていきます。そのため、高齢の方は外出などを控えるようにいわれています。外出を控えることは友人や知り合いに会う機会を失うことになり、人と人との接触が極端に減少することになります。これまで多くの人にとっては人と長い間会わないという経験は少ないと思いますが、ステイホームで他の人と会わないようになると、心にいろいろな影響を及ぼすことが考えられます。そこで、コロナ禍の中で携帯電話で会話するなど間接的に人と接触していた人とそうでなかった人で、心の状態がどのように異なるのかを調査した報告です。対象者はフランス、イタリア、スペインの18歳以上の4,207人でオンラインで調査しました。調査時期は2020年4月14日から4月24日までのそれぞれの国が封鎖中に行いました。調査の結果、封鎖中に携帯電話などで他の人と接触しなかった、または接触が減った人は、接触をこれまで通りに続けていた人や接触が増えた人と比較して、抑うつ感情が高いことがわかりました。このような心の影響は70歳以上の高齢者や、一人で住んでいない高齢者でより強くみられました。また、世代間での接触があった方が心の影響は少ない結果でした。今後、新型コロナウイルス感染症はまだ続くと考えられますので、直接会えなくても、携帯電話やテレビ電話など間接的に他の人と接触することを心掛けることは心の健康にとって大切と思われます
Gerontologist, 2020, doi:10.1093/geront/gnaa144
生物は地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を変化させる機能を持っています。この約24時間周期のリズムを概日リズムと呼びます。夜更かしをよくする人や夜勤の人などでは、この概日リズムが崩れることがあります。概日リズムの乱れは、乳がんや前立腺がんのリスクになるといわれています。一方、運動不足は概日リズムを乱す要因の1つとなります。そこで、1日のうちで運動する時間帯が乳がんや前立腺がんと関連があるかどうかを検討したスペインからの報告です。スペインの10地域から781人の乳がんの女性患者と865人の健康な女性、504人の前立腺がんの男性患者と、645人の健康な男性を集め、患者と健康な人の過去の運動の時間帯を調べました。その結果、朝8時から10時までに運動している人はこの時間帯に運動していない人に比べ、乳がんの発症が26%、前立腺がんの発症が27%低い結果でした。前立腺がんでは、午後7時から11時の運動も同じような効果がみられました。運動はもともと乳がんのリスクを下げる効果があるといわれていますが、同じ運動をするなら朝の時間帯に運動することが乳がんや前立腺がんの予防により役立つ可能性があります。
International Journal of Cancer, September 2020, DOI: 10.1002/ijc.33310
糖尿病の人は循環器疾患などの生活習慣病のリスクが高いことが報告されています。糖尿病の治療法はどんどん進歩していますが、基本的には食事や運動など生活習慣の改善が重要です。一方、緑茶やコーヒーの摂取量が多いと死亡リスクの低下効果が報告されています。そこで、糖尿病患者を対象に、緑茶やコーヒーの摂取量が死亡リスクの低減に効果があるのかどうかを検討した日本の報告です。対象は2型糖尿病(平均年齢66歳)の4,923人の患者(男性2,790人、女性2,133人)です。アンケートを用いて、緑茶とコーヒーの摂取量を評価しました。これらの患者を追跡して健康状態と、緑茶とコーヒーの摂取量の関連を検討しました。その結果、緑茶を飲んでいない人に比べ 1日2から3カップの人は死亡リスクが27%低下、1日4カップ以上の人は40%低下しました。次にコーヒーを飲んでいない人に比べ 1日2カップ以上の人は死亡リスクが41%低下しました。緑茶とコーヒーの組み合わせで検討すると、緑茶とコーヒーを摂取しない人に比べ、1日2~3カップの緑茶と1日2カップ以上のコーヒーを飲んでいる人は死亡リスクが51%低下、1日4カップ以上の緑茶と1日1カップのコーヒーを飲んでいる人は58%低下、 1日4カップ以上の緑茶と1日2カップ以上のコーヒーを飲んでいる人は63%も死亡リスクが低下していました。緑茶やコーヒーには抗酸化物質や抗炎症物質などが含まれており、死亡リスクを低減する効果の1つはこれらの作用ではないかと推測されます。糖尿病は他の生活習慣病の原因ともなりますので、緑茶やコーヒーを毎日飲む習慣をつけるといいと思われます。
BMJ Open Diab Res Care 2020;8:e001252. doi:10.1136/bmjdrc-2020-001252