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2020年9月 秋の薬膳 辛味で美味しい中国料理

目からウロコの調理学

秋の薬膳 辛味で美味しい中国料理

1.秋の薬膳

秋は二十四節気の立秋から立冬までの3か月。中医学の陰陽五行学説では、秋は夏の陽気が減少し、陰気が増加して涼しくなりますので「陽消陰長」と呼ばれています。秋は一年で一番美しく、凌ぎやすい季節です。「食欲の秋」こそが、私の秋の代名詞なのです。春にまいた種が実を結び「刈り取る」、まさに収穫の季節で、Wonderful Autumnの到来です。
しかし、この季節は、急な温度変化で体調を崩してしまい、だるさ、食欲不振、疲れがとれないなど、体調不良を感じることがあります。特に今年は、新型コロナウイルス感染症予防の中での熱中症予防の行動に、日本人は全員疲労困憊状態かと思われます。
今月は、「元気に!!秋を楽しむ美味しい薬膳」を紹介します。

秋の自然条件は「燥」。大気が乾燥しているので肺や気管支に支障が起き、その表裏関係にある大腸も病むことがあります。口・鼻・咽喉・皮膚がかさつき、毛髪がパサついたり、便秘の症状も出てきます。大地に立って大きく深呼吸し、気をたくさん取り入れてください。そして肺経に入る、旬を迎える果物、梨・柿・ミカン・ブドウ・リンゴを、また野菜では山薬・百合根・レンコン、そして蜂蜜を効果的に調理に使用しましょう。「旬の食材は美味しい!!栄養効果が高い!!」これは覚えておいてください。

・初秋は「温燥」。涼性の甘味・苦味の食材で清熱して肺を潤す。(夏の薬膳参照)

・晩秋は「涼燥」。温性の辛味・酸味の食材で肺を潤し乾燥を予防する。

秋は「滋陰潤肺」が重要なのです。特に、体を冷やさないように温かい料理を作って食べる事。香辛料を積極的に使う事を勧めます。

2.肺を養う「辛味」

秋は辛味の欠乏や過剰を避け、適量の摂取が重要なのです。中医学を基本にした薬膳で、五味の辛味は味覚のみでなく、臨床の症状反応によって分類されています。「辛味」は発散、活血作用があり、一般的には、血行促進、体内のものを発散させ、気や血の巡りをよくします。例えば「薬膳と中医学」(徳井・三成共著、建帛社)には、生姜・陳皮・葱・紅花と紹介しています。まさに、食欲不振には辛味は最高です。私達は、「薬膳は古代より自然発生的に生まれた哲学であり、有効な部分は健康増進のために受け継ぎたい」と日本人の健康増進のための「日本型薬膳」に導入しています。

3.基本五味と辛味

食べ物に含まれている味の物質を感知するのは、舌の粘膜の乳頭に分布する花の蕾のような味蕾。その味蕾細胞が刺激され感知して味覚神経に伝わり、脳で味が判断されます。これが「甘味・塩味・苦味・酸味・旨味」の五つの基本味の受容メカニズムなのです。それに対して、食べ物が口の中の舌に触れたり、口腔・鼻腔の粘膜に感知されて痛覚刺激で痛み、温覚刺激の温度の変化によって感知される「辛味」は、受容メカニズムが基本五味とは異なります。
(例)トムヤムクンの料理は温かいスープです。トウガラシの単独刺激の辛味より、辛味刺激と熱の刺激が同時に加わることでより活性化されて、辛味が強く感じられます。

4.辛味食品の温度受容体

口の中の温度受容体は何種類かあります。

(1)43℃以上の温度(活性化の温度閾値)で痛いと感じ始める受容体。
温度で体温が上がらなくても、熱いそして痛いと感じるのです。その辛味成分と食品を紹介します。
カプサイシンを含むトウガラシ、ジンゲロン・ジンゲロール・ショーガオールを含むショウガ、ピペリンを含むコショウなど。

(2)17℃以下の温度で、その温度感覚の他に痛みを感じる受容体。
17℃以下で、アリル化合物のアリルイソチオシアネートは温度受容体に反応されます。
その食品は、ワサビ、カラシ、ニンニクなど。

(3)香りでは、ミントのメントールの成分が26℃以下の温度に反応して「冷たい」と感じる。

(4)その他。温度受容体は体の皮膚にも分布されていますが、充分に解明されておらず、今後の課題です。上海の知人李カング氏より「冬の寒い日には、トウガラシを靴の中に入れなさい」と言われ、これは忘れられない一言です。

(5)辛味食品の健康機能性!?
世界中の人達が安全に美味しく健康的に食べるために、辛味の食品・スパイスは使われてきました。また、古くから健康機能を発揮するためか、自然療法で用いられて今日に至っています。人間に対して科学的な効果があるか根拠は定かではないものもありますが、現在の食品の加工や食生活には欠かせない食品です。

・唾液の分泌促進。

・食欲増進。辛味や風味は嗜好性を高める。

・食品を衛生的に保つ抗菌作用。

・体温調節作用。

・抗酸化作用。

・健胃効果。

・糖質代謝亢進作用。

5.その他

1.減塩効果
香りや辛味で美味しさが増して、少量の塩や調味料で満足な調理品ができる。

2.辛味を抑えるポイント

・トウガラシなどの不揮発性のホット系の辛味は、ヨーグルト・牛乳・アイスクリーム・マヨネーズなどを使う。油でコーティングされて辛味がおさまる。

・ワサビ・マスタードなどのシャープ系の揮発性の辛味は、辛味感は続かないので水を飲むとよい。

3.今回の秋の薬膳料理のアドバイス

・炒三仏手は、山椒の粉末を最後に入れて下さい。

・乾焼明蝦は、唐辛子・豆板醤を効かせて下さい。

・清炒豆苗は、唐辛子を1本追加して下さい。

・什錦炸麵は、紅生姜を天盛して下さい。

熱い料理は熱くしてお召し上がり下さい!!

目からウロコの健康学:なぜ日本人は長寿なのか

 日本人の平均寿命は、戦前の1940年代はおよそ男性50歳、女性54歳で先進国の中では最下位でしたが、戦後高度経済成長とともに急速に延び、1980年代には世界のトップになりました。最新の2018年のデータでは男性が5位、女性が2位で依然として世界のトップクラスです。海外に行くとなぜ日本人は長寿なのかとよく質問されます。バランスのとれた和食か、お風呂に入って清潔好きか、いろいろな理由が考えられますが、果たして本当の理由は何でしょうか。2010年以降、長寿要因に関するさまざまな分析が行われ、日本の平均寿命が高い理由として、①国民皆保険 ②衛生を好む文化 ③高い教育水準 ④食生活などが寿命の伸長に貢献しているのではないかと報告されました。具合が悪くなればいつでも医療機関にかかれる国民皆保険は世界に誇る保健医療システムです。食生活に関してもう少し詳しくみると、戦後日本人の死亡率のトップになった脳血管疾患は、①動物性食品や乳製品などの摂取で飽和脂肪酸やカルシウムの摂取量が増加(戦前まで日本人の脂肪摂取量は低すぎるレベルでした) ②食塩摂取量が減少しそれによる血圧の低下が起こり、死亡率は急激に減少しました。食塩摂取の減少はがん死亡率のトップであった胃がんも減少させました。先進国では心筋梗塞などの虚血性心疾患の死亡率が高いのですが、日本ではこの疾患の死亡率が非常に低く、その理由として、①肥満者が多くない ②飽和脂肪酸の摂取量が少ない(現在の欧米の国に比べて適正な摂取量) ③青魚を食べオメガ3の多価不飽和脂肪酸を摂取している ④大豆などの植物性食品をよく摂取している ⑤緑茶など無糖飲料をよく飲んでいるなどが指摘されています。つまり戦後日本は西洋の食文化も取り入れ、和食の欠点(脂肪やタンパク質の摂取量が少ない、食塩摂取量が非常に多い)を改善し、かつバランスよく料理する和食の伝統を守り続けたことが長寿につながったことになります。20年後の2040年の平均寿命の予測(男女一緒)では、スペインが第1位で85.8歳となり、日本は85.7歳で第2位、以下シンガポール(85.4歳)、スイス(85.2歳)の順となり依然高い平均寿命を維持するようです。しかし、現在健康をおびやかす要因として、喫煙率が高い、肥満者が少しずつ増加している、自殺率が高いなどが指摘されており、若い世代の食生活の乱れなどを考えるといつまで長寿の日本でいられるか心配なところです。

健康一口メモ

  • 認知症予防の11のポイント

     世界の認知症の専門家がこれまでの認知症予防の研究をまとめて、次の11のことを守ると認知症の発症を33%程度予防できると報告しました。
    ・40歳前後の中年期に収縮期血圧130 mm Hg以下を維持する
    ・過度の騒音から耳を保護して難聴を予防する。難聴の人には補聴器の使用を奨励する。
    ・大気汚染やタバコの間接喫煙への曝露を減らす。
    ・頭部の外傷を予防する。
    ・アルコールは飲み過ぎない(摂取量は1週間でビール大瓶5本程度、日本酒なら1週間で5合程度)
    ・タバコをする人は禁煙する。他の人の禁煙もサポートする。
    ・中年期に運動する。高齢になってもできる限り身体を動かす。
    ・できるだけ肥満にならない。
    ・できるだけ糖尿病にならない
    ・できるだけうつ病にならない
    ・できるだけ人と交わる

    Journal of the Endocrine Society, bvaa094, https://doi.org/10.1210/jendso/bvaa094

  • 肉桂(シナモン)は血糖を下げる効果がある

     血糖は高めだがまだ糖尿病ではない糖尿病予備軍の人に対して、肉桂(シナモン)を摂取してもらい、血糖がどのように変化するかを検討した米国の研究です。対象者を2群に分け(1群は27名)、1つの群には500mgの肉桂が入ったカプセルを、別の1群は肉桂が入っていないカプセルを1日3回、12週間にわたって摂取してもらいました。摂取前と12週間後におけるそれぞれの群の空腹時血糖値、糖負荷試験による2時間のときの血糖値、グリコアルブミン(過去約2週間の平均血糖状態を反映する)、HbA1c(過去約1~2ヶ月間の平均血糖状態を反映する)、カルボニル化タンパク質(酸化ストレスの指標)を比較しました。その結果、肉桂を摂取した群の方が空腹時血糖値や糖負荷試験による2時間のときの血糖値が有意に低下しました。またグリコアルブミンやHbA1cも有意な低下を示しました。酸化ストレスの指標であるカルボニル化タンパク質においても、肉桂群の方が有意な低下を示し、酸化を抑制する可能性がわかりました。今回、対象者には日常の食事については特に変更などを指示していないため、食生活習慣を変更せずに肉桂を取るだけで血糖改善につながる可能性があります。

    Sleep, zsaa078, https://doi.org/10.1093/sleep/zsaa078

  • 飲酒が多いと肺炎になりやすい

     飲酒量が市中肺炎(病院外で日常生活をしている人に発症する肺炎)の発症と関連があるという英国からの報告です。1985年から2017年の飲酒と市中肺炎の関連に関する研究論文を検討し17の論文が見つかりました。これらの論文をまとめて解析を行い次の結果が得られました。アルコール摂取量がゼロの人や少ない人に比べ、アルコール摂取量がある程度ある人やかなり多い人では市中肺炎になるリスクが83%増加することが示唆されました。また1日あたりのアルコール摂取量が10~20 g増えるごとに、市中肺炎の発症リスクが8%増加することもわかりました(下図参照)。この図は1日当たりのアルコール摂取量がゼロの人のリスクを1として、アルコール摂取量が増えるごとに市中肺炎の発症リスクがどの程度増加するのかを赤線で示したものです。明らかにアルコール摂取量が多いほど市中肺炎の発症リスクは上がります。市中肺炎の発症リスクが問題にならない1日当たりの飲酒量としては、ビールは中びん1本(500ml)、日本酒は1合(180ml)、ウイスキーはダブル1杯(60ml)、焼酎0.6合(110ml)が目安となります。ステイホームで時間ができ、つい飲酒してアルコール摂取量がこれまでより増加する人が増えているといわれています。コロナの時代も飲酒は適量がいいです。

    BMJ Open 2018;8:e022344