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2018年9月 秋の薬膳 ベトナム料理

ベトナム料理の特徴

ベトナムは漢字で『越南』と示されるように歴史的にも中国との関わりが深く、食文化においても同様である。ベトナム料理は中国のみでなく植民地統治時代のフランス文化などからも深い影響を受け洗練さも加味されている、料理の味付けはコッテリではなく淡泊であり、クセも少なくマイルドな味付けである。特に柑橘系の酸味の食材、アジアの生野菜やハーブが上手にアレンジされ美味しさを引き立たせている。特徴といえば、小魚を塩漬けにして発酵させた魚醤などの発酵調味料を使うこと、麺類や春巻の皮なども小麦ではなく米から作られた食材が使われている事である。調理方法は炒める、蒸す、煮るなど中華料理と共通する手法が多いが、魚は日本料理やカンボジア料理のように直火で焼く料理もある。
次に、ベトナム料理の味のベースになる「だし汁」や「つけダレ」、「ソース」は重要であり、これらが不可欠なベトナム料理は、まずこれらの最初の仕込みが料理全体を決定するといっても過言ではなく、「美味しさの基準」だと言える。
ベトナムで紹介したい料理にフォーがある。茹でたての麺に柑橘系の酸味、生野菜やハーブ類など爽やかさをたっぷりと添え、スープの中に入れ一緒に食べる料理である。個人の嗜好に合わせてライムの汁を入れたり、生のトウガラシを一緒に楽しんでもよい。
次に紹介したい料理はベトナムの正月に欠かせない、テト!!豚肉と茹で卵の煮物で、沢山作っておもてなし料理の一品として家庭で愛されている。この料理はハノイの食堂で人気メニューだと言われている。それから、今回は日本にある食材でベトナム風の生春巻きやデザートも紹介する。

世界の郷土料理と健康:ベトナム編

 人類の食文化の歴史を眺めると、今からおよそ一万年前に農耕文化が始まりました。アジアでは稲作が、欧州は麦を中心とした食文化が生まれました。ベトナムや中国南部では米粉の麺が主食となり、中国北部ではご存知小麦で作る餃子が主食となって食卓を飾ります。日本では戦後、米の消費量が徐々に減少したため、なんとか米の消費を維持しようと、国は米粉の開発に乗り出しました。米粉を麺やパンやケーキやクッキーなどの材料として活用しようとしましたが、かんばしい成果はでていません。米粉を使うのなら、米粉の故郷ベトナムに学ぶことが大事です。ベトナムの米はインディカ米で日本のジャポニカ米と違いぱさぱさしています。これは米に含まれているアミロースというデンプンの含有率が異なるためです。インディカ米のアミロース含有率は20~30%を占め、日本の米は約18%です。アミロース含有率が高い米を炊いて冷ますと、レジスタントスターチという食物繊維ができ、血糖や血清コレステロールの低下作用がある機能性のごはんとなります。ベトナムの郷土料理フォーはインデイカ米の米粉で作る麺で、レジスタントスターチが含まれています。そのため、血糖が上昇しにくい麺です。福井市に本社があるアジチファームは、ベトナムでフォーの食文化を学び、現在福井県内でインディカ米を生産し米麺フォー普及による米消費拡大を目指しておられます。ベトナムのフォーは朝食の定番メニューで、野菜がたくさん入ったフォーを食べると、朝からヘルシー食となります。血糖が気になる方にはぜひ食べていただきたい麺料理です。

  • 炭水化物もほどほどがいい

     日本人は、主に米やパンから炭水化物を摂っていますが、炭水化物をどのくらい摂ると長生きするのかという米国の研究です。参加者約15000人(45-64歳)を平均25年間追跡調査して、食事と死亡率の関連を検討しました。その結果、炭水化物摂取量と死亡率にはU字型の関係がありました。つまり、炭水化物から摂るエネルギーが全体のエネルギーに占める割合の比率を計算して、この比率が50-55%の人の死亡率が最も低く、40%未満の人(低炭水化物摂取の人)の死亡率は50-55%の人の死亡率の1.2倍(平均寿命では4年短い)、70%以上の人(高炭水化物摂取の人)の死亡率は50-55%に比べて1.2倍(平均寿命では1年短い)でした。また低炭水化物摂取の人で、動物性(牛肉、羊肉、豚肉、鶏肉、チーズなど)のたんぱく質や脂肪を多く食べている場合と、野菜、豆類などの植物性食品からのたんぱく質や脂肪を多く食べている場合を比べると、前者の人の方が死亡リスクが高いことがわかりました。現在の日本人の炭水化物からのエネルギー比率は50%程度なので、ちょうどいいことになります。血糖を上げないために、炭水化物をあまり摂らず、そのかわり動物性たんぱく質や脂肪を摂っていると、死亡率が高くなる可能性があるようです。

    Lancet Public Health 2018 August 16,
    http://dx.doi.org/10.1016/S2468-2667(18)30135-X

  • うま味は健康的な食事を提供する

     うま味は甘味・塩味・苦味・酸味とともに5つの基本の味の1つですが、うま味のある食事を摂ると、健康的な食行動をするという米国の研究です。研究では、若く健康な女性を対象に、うま味(グルタミン酸ナトリウム)を添加したものと無添加のもののいずれかのチキンスープを飲んでもらい、その後、ビュッフェ形式の食事を摂ってもらい、脳活動の変化について調べました。うま味が入っているスープを摂取した人は、ダイエットするときの自己コントロールをつかさどる脳の領域が活性化しました。実際飽和脂肪の摂取量が少ない結果でした。このことは、健康的な食生活をしようとして健康的な食品選択をする脳活動がうま味によって活性化される可能性を示唆しており、ダイエットするときは、うま味のある食事をした方が、健康的な食生活をより続けられるかもしれません。

    Neuropsychopharmacology
    https://doi.org/10.1038/s41386-018-0044-6

  • 朝食で血糖の代謝をよくする

     朝食の有無とその後の運動が、糖質の代謝にどう影響するのか、また昼食の糖質の消化吸収にどう影響するのかを検討した英国の研究です。健康な男性12人を対象に、①朝食を取りその2時間後に運動(自転車こぎ1時間)して昼食を取った場合、②朝食は食べずに同様の運動をして昼食を取った場合、③朝食後3時間安静にして昼食を取った場合について、血糖値と筋グリコーゲン(筋肉に含まれる糖)の測定を行いました。その結果、朝食を食べてその後に運動した場合、糖質の燃焼率が高まり、運動後に取った昼食の糖質の低下がより早く起こることがわかりました。このことは、糖尿病のリスクがある人はきちんと朝食を取り、その後運動することが大事であることを示唆しています。

    American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism
    https://doi.org/10.1152/ajpendo.00163.2018